アデノウイルス・ワクチン
アデノウイルス(adenovirus)を利用した治療薬の代表は、遺伝子治療薬です。adenovirusを用いた研究は歴史があり、遺伝子治療用のadenovirusは、最新世代の改変型adenovirusが使用されています。
使用されるワクチン用のadenovirusは、目的に適した改変adenovirusが使用されるはずですが、前世代adenovirusが使用されているようです。この部分は、十分に把握できていないので、今後の調査を進めたいと思っています。
アデノウイルス・ベクターを使ったワクチンとして代表的なものは、やはり、Astrazeneca社のCOVID-19ワクチンです。2021年中には、日本でも集団摂取が予定されています。Astrazeneca社のワクチンに関する情報は、後半に述べています。
adenovirusのウイルス膜表面に、目的の抗体を作りたいウイルスの膜表面タンパク質を発現さたり、ベクターとして組み込んだ遺伝子に目的のタンパク質を発現させることも可能です。現在、新型コロナウイルスのワクチンとしてAstrazenecaの臨床試験が行われているadenovirus vector vaccineがあります(2020)、mRNAなどの核酸ワクチンと比較して、細胞免疫を惹起するため強いワクチン効果が期待できます。ただし、ワクチン効果以外の服反応も起こるため、免疫獲得として摂取できる回数は少ない数回に限定されます。核酸ワクチンの場合は、副次的な反応が理論上はないため、複数回の免疫が可能です。抗体ができるまで、複数の免疫も可能と考えられます(2020/09/08)。
adenovirus vector vaccine (アデノウイルス・ワクチン)は、核酸ワクチンの原理と比較して、抗原提示に関するT細胞の免疫応答が強まる(細胞免疫)、感染細胞への殺傷効果が高い可能性があることから、よりワクチン効果が高い期待があります source: Adenoviral Vector-Based Vaccines and Gene Therapies: Current Status and Future Prospects, 2018。
上記参照文献は、adenovirusに関わる情報を網羅的によくまとめられおり、初学者には貴重な情報源となります。以下、原文の英語を日本語にまとめるとともに記載分類を再編成しレジメ化しました。以下の(数字)は、原文での参照文献番号を表しています。
- 遺伝子投与(核酸ワクチン)による抗原の産生では、抗体の生成は可能だが、抗原提示に関するT細胞の免疫応答が弱い可能性 (核酸ワクチンの弱点の可能性)
- adenovirusのウイルス膜表面への抗原提示、あるいはAdenorirus自体によるアジュバント効果(可能性)では、抗体の生成とT細胞の免疫応答のどちらも強力に得る可能性が高まる
adenovirus
adenovirusの特徴は、DNAウイルスであり以下の通りです。
- カプシドとゲノムで構成されている
- 表面抗原を構成するタンパク質は、(1)ペントン、(2)ヘキソン、(3)ファイバー
- 血清型間で、ヘキソンの超可変領域とファイバーのエピトープ配列の不均一性が高い
- 殆どの人は抗体を持っている
- サイズ : 70 ~ 90 nm
- 26~45kb二本鎖DNAゲノム、両端に100-140bpのフランクを持つ2つの逆方向末端反復を含む
- 相補のDNAはそれぞれタンパク質をコードしている(双方向)
- オルタネイティブ・スプライシングによりmRNAの異なるポリA修飾を使用する
遺伝子導入実験ハンドブック — タカラバイオ —
AAV (Parvoviridae) : ssDNAウイルス, 5kb, 18-26nm, P1レベル, 染色体への積極的なゲノム組み込み(-)
adenovirus (Adenoviridae) : dsDNAウイルス, 36kb, 70-90nm, P2レベル、染色体への積極的なゲノム組み込み(-)
lentivirus (Retroviridae) : ssRNAウイルス, 8-9kb, 80-130nm, P2レベル, 染色体への積極的なゲノム組み込み(+)by Mr. Harikir (2021/02/11)
https://catalog.takara-bio.co.jp/PDFS/transgenesis_experiment.pdf
- 遺伝子は、それぞれ5つの初期遺伝子と後期遺伝子に分けられる
- 初期遺伝子 : E1, E3, E4は、自然免疫を抑制する
- E1
- E1A
- ウイルスDNA合成に必要な遺伝子の転写の活性化
- 宿主細胞への影響 : p53依存的と非依存的によりアポトーシス(ハイジャックアポトーシス)を誘導(9)
- immuning回避(T細胞への抗原提示の減少(67) )、腫瘍形成(60,61)
- E1B
- 宿主タンパク質(p53, Bak, BAX)への結合によりアポトーシスを阻害する(68~79)
- E1A
- E2
- E3 : 免疫調節機能
- 感染細胞を免疫細胞から認識されないようにする (78)
- 検出MHCクラスI分子の表面輸送の遮断
- 宿主細胞の表面にあるNK細胞受容体を減少させる
- Death receptorsのダウンレギュレーションすることにより、adenovirus感染細胞のアポトーシスを阻害する
- 感染細胞を免疫細胞から認識されないようにする (78)
- E4 (74, 75, 76, 77)
- E1B-55とE4のタンパク質は、Daxxタンパク質を誘発することで、抑制されているウイルスのゲノム発現を可能にする
- E1B-55kとE4の結合タンパク質は、自然免疫である抗ウイルス応答を抑制する
- 細胞に取り込まれた時に発現する
- タンパク質合成、ウイルス複製に必要な宿主遺伝子の発現調整
- E1
- 後期遺伝子
- L1-L5
- アセンブリ、放出、宿主細胞の妖怪(1,5,6)
- 初期遺伝子 : E1, E3, E4は、自然免疫を抑制する
- 非エンベロープ
- 20面体DNAウイルス
- 50以上の血清型 (遺伝的に多様)
- Adenoviruses (Adenoviridae) (10,11,12)
- Mastadenovirus
- 動物のアデノウイルス(サル、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ)
- ヒトのアデノウイルス (Human Adenoviruses; HAd)
- 7つ (A ~ G)
- 血清学的特徴では、67種類、更にサブグループ
- Aviadenovirus
- Siadenovirus
- Atadenovirus
- Ichtadenovirus
- Mastadenovirus
- 宿主組織 : 眼、呼吸器、胃腸の上皮など生命の危機に関わらない感染
- 1953年、Roweらにより組織から分離された(2)
- ヒトと動物の間で無症状の気道感染症を起こす
- 免疫不全の患者では生命に危険がおよぶ場合がある
- 殆どのヒトで中和抗体を有している(3)
- 癌療法に使用される(4)
- 構成タンパク質(6, 7, 8)
- ヘキソン
- 主たる表面タンパク質(270 x 3量体)
- 超可変領域を含む。この領域を利用してワクチン抗原にできる
- ペントン
- 20面体の12の頂点に12 x 5量体
- ファイバーと共に宿主細胞の受容体のリガンドとなる
- ファイバー
- 12の3量体が突出している
- ペントンと共に宿主細胞の受容体のリガンドとなる
- IIIa
- カブシドの内側に位置する
- 頂点領域の裏打ちと内包するウイルスゲノムの組み立てに寄与する
- VI
- 内側と外側のカプシドシェルをリンクする
- VIII
- ヘキソンの裏打ち
- V, VII, IX
- DNAゲノムに関連し、ビリオンのコアを構成
- 末端タンパク質は、2本鎖DNAの末端に結合し、複数のVにより作られたコアとリンクして位置を安定化
- ヘキソン