はじめに
目次
- はじめに
- 造船業とバイオ医薬品製造設備は何が共通するのか
- 日本でも大型培養設備はプラントエンジニアリングの対象だった
- シングルユースだけでは対応しにくい領域(2ページ)
- 大型ステンレス培養タンクでは「形状設計」だけでは足りない(2ページ)
- 造船DXから得られる示唆(2ページ)
- GMP設備では変更管理がさらに重要になる(2ページ)
- 3Dモデルは「見た目」ではなく設計情報の入口である(2ページ)
- 大型設備では外注先との情報共有も重要になる(3ページ)
- バイオ医薬品製造設備における設計DXの進め方(3ページ)
- 造船DXをそのまま移植するのではない(3ページ)
- まとめ(3ページ)
- 参考文献・出典(3ページ)
- 用語表(4ページ)
私はバイオ医薬品を専門としているため、造船業そのものについて語る立場にはない。しかし、造船業におけるDXや設計フローを調べていくと、大型バイオ医薬品製造設備の設計にも共通する考え方があるように感じた。
特に、大型の固定設置型設備であるステンレス培養タンクの設計では、造船業で重視される「設計情報を一貫して管理する」という発想が参考になる。
近年、バイオ医薬品製造では、シングルユースバッグを筐体に設置するタイプの培養装置が広く使われている。シングルユースシステムは、洗浄・滅菌バリデーションの負担を軽減し、多品種少量生産や開発初期の製造に適している。
一方で、大量製造や長期的な商用生産では、大型ステンレス培養タンクが必要になる場合がある。シングルユースバイオリアクターでは6,000 L級の製品も報告されているが、それ以上のスケールが必要な場合や、製品の生産濃度が低くスケールメリットを求める場合には、大型ステンレスタンクによる製造が選択肢となる。BioPharm Internationalは、シングルユースとステンレスバイオリアクターの使い分けについて、製造規模、製品特性、コスト、運用条件を踏まえた評価が必要であると説明している。
本稿では、造船業のDX、設計フロー、設計情報管理の考え方を参考にしながら、大型バイオ医薬品製造設備、とくにステンレス培養タンクの設計にどのような示唆があるかを考える。
造船業とバイオ医薬品製造設備は何が共通するのか

造船業とバイオ医薬品製造設備は、一見するとまったく異なる分野である。
造船業は船舶を設計・建造する産業であり、バイオ医薬品製造設備は細胞培養や精製工程を通じて医薬品を製造する設備である。対象物も、規制環境も、求められる専門知識も異なる。
しかし、大型設備の設計という観点で見ると、両者には共通点がある。
造船では、船体構造、配管、機器配置、電装、艤装、工程、外注先、完成図書など、多くの情報を一貫して扱う必要がある。造船分野では、3D CAD、2D CAD、BOM、BOP、PLM、建造データベースなどを連携させる考え方が示されている。BOMは部品表、BOPは工程や作業構成を表す情報であり、設計・製造・調達をつなぐ基盤になる。
大型ステンレス培養タンクでも、同様の問題が起こる。
タンク本体だけでなく、撹拌機、ノズル、配管、バルブ、センサー、CIP、SIP、ユーティリティ、制御盤、足場、建屋、搬入経路、メンテナンススペース、バリデーション文書、変更管理記録までが関係する。
つまり、どちらも「巨大な構造物を設計する」というだけではなく、設計情報、製造情報、施工情報、変更情報、保守情報をどうつなぐかが重要になる。
日本でも大型培養設備はプラントエンジニアリングの対象だった
大型ステンレス培養タンクの設計は、単体の培養槽メーカーだけで完結するものではない。
日本でも、大型バイオ医薬品製造設備の設計・建設には、日立系やIHI系などの重工・プラントエンジニアリング企業が関与してきた。
たとえば日立プラントサービスは、バイオ医薬品プラント分野において、培養槽の設計・施工、洗浄性、無菌性、細胞生産性を考慮したエンジニアリングを提供していると説明している。同社は、バイオ医薬品プラント250件以上、培養槽500基以上の実績を示している。
また、日立製作所は2015年、中外製薬工業の浮間工場に新設されるバイオ抗体原薬生産プラント向けに、6,000 L培養槽6基を含む生産設備一式の設計・調達・建設を受注したと発表している。日立はこの発表で、培養設備、製造実行システム、制御システム、情報システムを含む医薬プラント向けソリューションを有すると説明している。
IHI系でも、IHIプラントエンジニアリングがバイオ医薬品製造プラントに関する技術資料で、培養槽や精製機器のスケールアップ、設計手法、開発型バイオエンジニアリングについて解説している。これは、バイオ医薬品製造設備が、培養槽単体ではなく、プラント全体として設計される対象であることを示している。
さらにIHIは、UMNファーマなどと関係するUNIGEN岐阜工場について、21,000 L培養槽を複数基有するバイオ医薬品工場の建設・竣工を公表している。これは、国内でも2万L級の大型培養槽を備えたバイオ医薬品製造設備が実際に建設されてきたことを示す事例である。
これらの事例から分かるのは、大型ステンレス培養設備が、単なる「タンクの購入」ではなく、プラント全体の設計・施工・制御・情報管理を含むエンジニアリング対象だということである。
さらに私が知る古い事例として、ミドリ十字がHSA製造用のバイオプラントとして、80 kL(80,000L)級培養タンク3基を備える実製造プラントを建設していたとの情報がある。公開資料で確認できる範囲になるが、ミドリ十字は1980年代初頭から微生物によるHSA製造技術に関与していた。
HSAは、抗体医薬品とは異なり、投与量や需要量が大きくなりやすいタンパク質である。そのため、生産濃度が十分でなければ、製造に必要な培養容量は非常に大きくなる。80 kL級の培養タンクを複数基備える設備は、まさに大型固定設備であり、培養槽単体ではなくプラント全体として設計する必要がある。
このような事例を考えると、バイオ医薬品製造設備でも、造船業と同様に、巨大設備の設計情報をライフサイクル全体で一貫管理する発想が重要になる。
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