DSPとは何か:バイオ医薬品におけるDownstream Processの役割[2026/05/23]

バイオ医薬品の製造工程は、

目次

  1. バイオ医薬品の製造工程は、
  2. USPとDSPの違い
  3. DSPの基本的な流れ
  4. 1. ハーベスト後の清澄化
  5. 2. キャプチャー精製
  6. 3. ウイルス不活化・ウイルス除去
  7. 4. 中間精製・ポリッシング
  8. 5. UF/DFによる濃縮・バッファー交換(2ページ)
  9. 6. 原薬工程としての最終調整(2ページ)
  10. DSPで管理すべき品質リスク(2ページ)
  11. 不純物除去(2ページ)
  12. 回収率(2ページ)
  13. 凝集体・分解物の増加(2ページ)
  14. スケールアップ時の変動(2ページ)
  15. DSPとUSPはどちらが重要か(2ページ)
  16. DSPの実務で重要になる考え方(3ページ)
  17. 1. DSPは後始末ではない(3ページ)
  18. 2. DSPは品質属性と結びつけて考える(3ページ)
  19. 3. DSPは工程変更時の比較性評価にも関係する(3ページ)
  20. USPとDSPの関係をイメージで理解する(3ページ)
  21. まとめ(3ページ)
  22. 用語集(3ページ)
  23. 注意点・例外(4ページ)
  24. 参考文献・出典(4ページ)

大きく USP(Upstream Process:上流工程)DSP(Downstream Process:下流工程) に分けて説明されることがあります。

USPは、細胞株の構築、培養、発現、生産など、目的タンパク質や抗体などを「作る」工程です。一方、DSPは、USPで得られた培養液や細胞破砕液などから、目的物質を回収し、精製し、濃縮し、最終的に原薬として使える品質へ整える工程です。

EMAのバイオテクノロジー由来有効成分のプロセスバリデーションに関するガイドラインでは、DSPは「最終ハーベスト後の最初の工程から始まり、望ましい品質の製品に至る工程」と説明され、細胞破砕、濃縮、不純物除去、ポリッシング、リフォールディング、修飾工程などを含み得るとされています。

USPとDSPの違い

USPとDSPの違いは、単に工程の前後関係だけではありません。工程の目的、管理すべきリスク、品質への影響の仕方が異なります。

項目USP:Upstream ProcessDSP:Downstream Process
主な目的細胞に目的物質を産生させる目的物質を回収・精製・濃縮する
主な対象細胞株、培地、培養条件、バイオリアクター培養液、目的タンパク質、不純物、ウイルス、HCP、DNAなど
代表的な操作細胞培養、発酵、培地交換、フィード制御遠心、ろ過、クロマトグラフィー、UF/DF、ウイルス除去
品質への主な影響糖鎖、発現量、分解物、凝集体、培養由来不純物純度、不純物除去、濃度、安定性、ウイルス安全性
失敗時の影響収量低下、品質属性の変動精製不良、回収率低下、不純物残存、品質不適合

簡単に言えば、USPは「目的物質を作る工程」、DSPは「目的物質を医薬品品質に近づける工程」です。

ただし、USPとDSPは独立していません。USPで生じた不純物、分解物、凝集体、培地成分、細胞由来タンパク質、宿主細胞DNAなどは、DSPで除去すべき対象になります。そのため、USPが不安定であればDSPの負荷も増え、DSPが十分に設計されていなければ、USPで良好に産生された目的物質も最終的な品質に到達できません。

DSPの基本的な流れ

DSPの構成は製品の種類、発現系、目的物質の性質、品質目標によって変わりますが、抗体医薬や組換えタンパク質では、一般に次のような流れで説明できます。

1. ハーベスト後の清澄化

USPで培養が完了すると、培養液には目的タンパク質だけでなく、細胞、細胞破片、培地成分、宿主細胞由来タンパク質、DNA、脂質、分解物などが含まれています。

最初に行うのが、これらの固形物や大きな粒子を除去する清澄化です。代表的な方法には、遠心分離、デプスフィルター、精密ろ過などがあります。

この工程の目的は、次の精製工程に適した状態の液体を得ることです。ここで細胞破片や濁りが十分に除去されていないと、後段のクロマトグラフィーカラムやフィルターが詰まりやすくなります。

2. キャプチャー精製

キャプチャー精製は、目的物質を大まかに回収し、多くの不純物から分離する工程です。

抗体医薬では、Protein Aクロマトグラフィーが代表的です。Protein AはIgG抗体のFc領域に結合する性質があるため、抗体を選択的に回収しやすいという利点があります。

この段階では、純度を一気に高めることができますが、同時に目的物質の回収率、カラム負荷量、溶出条件、pHストレス、凝集体形成などにも注意が必要です。

3. ウイルス不活化・ウイルス除去

バイオ医薬品、とくに細胞株を用いて製造される製品では、ウイルス安全性の評価と管理が重要です。

ICH Q5Aでは、ヒトまたは動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品等について、ウイルス安全性評価の考え方が示されています。日本ではPMDAのICH Q5ページにもQ5A関連文書が掲載されています。

DSPでは、低pH処理によるウイルス不活化、ウイルス除去フィルターによるナノフィルトレーション、クロマトグラフィーによるウイルスクリアランスなどが設計されることがあります。

重要なのは、単にウイルス除去工程を入れることではなく、工程全体としてどの程度のウイルスクリアランス能力があるかを示すことです。

4. 中間精製・ポリッシング

キャプチャー工程の後には、さらに不純物を減らすための中間精製やポリッシング工程が置かれます。

代表的な不純物には、次のようなものがあります。

不純物内容
HCPHost Cell Protein:宿主細胞由来タンパク質
HCDNAHost Cell DNA:宿主細胞由来DNA
凝集体目的タンパク質同士が会合したもの
分解物目的タンパク質が切断・変性したもの
Protein A漏出物Protein Aクロマトグラフィー由来の残留成分
エンドトキシン主に微生物由来の発熱性物質
培地由来成分培地、添加物、フィード成分の残留

ポリッシングでは、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ミックスモードクロマトグラフィーなどが使われます。

目的は、製品関連不純物と工程由来不純物を管理し、最終的な品質、安全性、有効性に影響し得る要素を十分に低減することです。

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