[ゲノム編集] デュアルAAVデリバリーシステムによるマウスのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療研究 (CRISPR-Cas9を補助する) – ID9877 [2020/08/22]

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はじめに

ゲノム編集には、ウイルスベクターが必要です。小型の動物実験には、Labレベルのウイルスベクターの製造能力でも対応が可能ですが、ヒトへの臨床応用には、一般の実験室規模では対応が難しくなります。

新しいモダリティであるウイルスベクターにも参入障壁となっています。研究者たちは、色々と試行錯誤して少ないウイルスベクターでも効率的なゲノム編集が可能な方法を模索しています。

概要

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、ジストロフィン遺伝子(DMD)に変異を持つ。これまでは、CRISPR-Cas9を介した「シングルカット」ゲノム編集を行い、DMD動物モデルの多様な遺伝子変異を修正してきた。

効率的にin vivoゲノム編集を行うには高用量のアデノ随伴ウイルス(AAV)が必要であるため、臨床に応用するには課題となっています。

この研究では、従来のAAV vectorに、補完するAAV vectorを用意してデュアルAAVシステムとしてデザインされています。

DMDマウスモデルでの検討

  • Cas9ヌクレアーゼを一本鎖AAV(ssAAV)にパッケージ
  • CRISPRシングルガイドRNAを自己相補的AAV(scAAV)にパッケージ

効率的なゲノム編集に必要なscAAVの用量は、ssAAVの場合よりも少なくとも20倍低かった。治療を受けたマウスは、ジストロフィン発現の回復と筋肉収縮性の改善を示した。これらの調査結果は、scAAVシステムを使用することで、CRISPR-Cas9を介したゲノム編集の効率を大幅に改善できることを示した。

Enhanced CRISPR-Cas9 correction of Duchenne muscular dystrophy in mice by a self-complementary AAV delivery system, 2020 – Science Advances –

https://advances.sciencemag.org/content/6/8/eaay6812.full

参考

デュジェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の病態とビルテプソ®︎の作用機序 – 日本新薬 –

(1)5歳ごろに運動能力のピークを迎え、10最ごろに歩行困難となる。
(2)嚥下障害、排痰困難、消化管障害、呼吸筋や心筋障害と進み、呼吸不全、心不全で死に至る
(3)ジストロフィン遺伝子は、79個のエクソンを有する。スプライシングにより、mRNAは14kbと小さくなる。
(4)翻訳されたジストロフィン蛋白質のアミノ酸数は、3,685個、分子量は、427kDaと巨大分子である
(5)ジストロフィンは、細胞室内のアクチンと結合し、細胞膜の糖タンパク質(αジストログリカン; αDG)とジストロフィン-ジストロフィン関連糖タンパク質複合体を形成し、ラミニンα2を通じて細胞外マトリックスの基底膜と連結している。すなわち、ジストロフィンは、基底膜と筋細胞の細胞骨格を固定し、筋細胞同士を固く構造を維持するしている
(6)ジストロフィン-ジストロフィン関連糖タンパク質複合体の両端の構造は筋細胞の構造維持には必須である

(7)発症機序 : ジストロフィンの欠損により筋細胞構造が脆弱であるため、筋細胞構造の破壊と再生が繰り返す結果、患部は瘢痕化(脂肪化、線維化)する事で、筋細胞の再生がされにくくなっていく
(8)ジストロフィン遺伝子内にエクソンの欠失があり、その結果、塩基数が3の倍数でなくなる時、mRNAがアミノ酸へ翻訳できなくなるアウト・オブ・フレームが生じ、翻訳されるジストロフィンタンパク質は、縮小されるか欠損する
(9)ビルテプソ®︎は、ジストロフィン遺伝子のエクソン53を標的とするアンチセンス核酸医薬品で、エクソン53に結合してスプライシング時にエクソン53をスキップさせるてアウト・オブ・フレームをさせなくする

https://www.nippon-shinyaku.co.jp/viltepso/pathological/

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)- JMDA ; 日本筋ジストロフィー協会

(1)X連鎖(性染色体のジストロフィン遺伝子の変異)の劣性遺伝であるため患者は男児に多い
(2)健常人では、筋細胞の細胞膜の構成成分の1つであるβジストログリカン(β-DG)の細胞質側に細長い縄状のジストロフィン蛋白質が結合している。ジストロフインの先端はアクチンフィラメント結合している。DMDでは、ジストロフィン蛋白質を欠損している
(3)突然変異での発症もある(1/3)
(4)稀に鎖染色体と常染色体の相互転座、Turner症候群があると女児にも発症
(5)女性で遺伝子の異常を持っている場合、稀にクレアチンキナーゼ(creatine kinase; CK)が高く、軽い筋力の低下がある
(6)DMDの発症率は、3,300人あたり1人、10万人あたり3-5人
(7)3~5歳頃から、転びやすく走れないなどの運動能力の低下が見られる
(8)治療は、ステロイド治療、予防はリハビリが有効
(9)AAVを使ったシストロフィン遺伝子治療への期待

https://www.jmda.or.jp/mddictsm/mddictsm2/mddictsm2-1/mddictsm2-1-1/
編集履歴
2020/02/20 はりきり(Mr)
2020/08/22 追記(アンチセンス医薬品(日本新薬)、日本筋ジストロフィー協会)
2021/10/31,記載整備