白内障手術
白内障の手術は、水晶体を人工の眼内レンズ (intraocular lens : IOL)に置き換えることで行います。切開する部位は、黒目と白目の境界部分を2mm程度の大きさで、3カ所切開し、水晶体を砕いて吸い出した後、折り畳んだ合成樹脂製の人工レンズを挿入し、水晶体を包んでいた水晶体嚢の内側で広げて固定します。固定は、支持部と呼ばれる羽状の部分が水晶体嚢内を支えます。
レンズについて
レンズの種類
文献2から拝借しました。色々な形のものがあります。
図1. 眼内レンズの色々
レンズの素材
昔は、硬いアクリル樹脂のPMMA (ポリメタクリル酸メチル樹脂; Polymethyl methacrylate)使われていました。次にシリコン、最近では、折り畳める柔らかいアクリル樹脂(PMMA2やPMMA3などと呼ばれている)が使われてるようになり、手術時の切開は小さくできるようになりました。
レンズの構造
丸い部分がレンズ部(工学部)です(図1)。2つの羽は支持部と言います。レンズ部と支持部が同じ素材でできているものと、異なる素材でできているものがあります。
白内障手術後の合併症
参考文献1をもとに合併症について以下にレビューしました。
視界が眩しく感じる 青く見える
加齢の場合の白内障では、水晶体が黄色に着色していることで、術前では赤っぽく見えています。無色透明の人工レンズに置き換えることで、眩しく見えたり、青く見えたりしますが、それは正常であり、慣れてきます(文献6)。
コロコロする クシャクシャする
白内障手術では、白目と黒目の間に手術用の穴を3箇所あけているため、その傷がなおるまでは、症状が続きます。時間とともに改善します(文献6)。
一過性眼圧上昇
白内障が高度に進行していたり、もともと緑内障やぶどう膜炎がある場合など、術後に眼圧が上がる方がいるようです(文献6)。
(私の場合も、術後の直後から、1週間後まで、眼圧が32~38mmHgと高い状態でした。途中、ステロイド剤の変更と、眼圧を下げる点眼液を追加しました)
飛蚊症 (硝子体混濁)
手術によりよく見えるようになったことで、気になることがあります。ただし、別の要因で飛蚊症が増えることもあるため、医師の診断を受ける必要があるとのことです(文献6)。
前嚢収縮
症状
- 前嚢収縮とは、切開した部分の白濁により、円状に視野の狭窄が進む。
- 術後3ヶ月以内で進行することが多い
- なり易い持病
- 落屑症候群
- 網膜色素変性症
- 糖尿病
- 原因は、水晶体上皮細胞(lens epithelial cell : LEC)の増殖
- 専門的には、水晶体上皮細胞は本来、脱核すること、クリスタリン蛋白質をつくることで、透明性を発揮するのですが、前嚢収縮においては、形質転換して間葉系細胞になることで、本来の透明性を発揮できなくなるとのこと。
治療
- Nd : YAG (ネオジウム・ヤグ)レーザーによる線維部分の切開。
後発白内障
後発白内障は、白内障の治療手術により水晶体を取り除いた後に起こります。水晶体を包んでいる袋にどうしても取り除けず残っていたLECが増殖することが原因です。
症状
- 残存したLECの再増殖による再混濁
- 早期の繊維化もあるが、殆ど長期間をかけて線維化が進む
- 5年で20%の発症率
- なり易い持病
- 糖尿病
- ぶどう膜炎
- アトピー性皮膚炎
- 先天白内障
- 強度近視
- IOL工学部エッジをシャープにすると発症率が低下する
- IOLと後嚢の接着性を高めて予防性を上げる。接着性とは一般的に癒着といいます。
治療
- Nd : YAG (ネオジウム・ヤグ)レーザーによる線維部分の切開。
- 合併症
- 眼圧上昇(術前点眼で予防)
- 飛蚊症
- 網膜剥離
- 人工レンズのキズ
後嚢切開術の説明
https://www.kobe-kaisei.org/patient/introduct/medical/ophthalmology/ophthalmology09/
眼内レンズ偏位・脱臼
症状
- 発生頻度は3%
- 術後早期では
- 水晶体嚢破損によるもの
- Zinn(チン)小帯断裂による固定不良(文献5)
- 術後3ヶ月移行では
- IOLが嚢ごと脱臼するケーズが多い
- なり易い持病
- 落屑症候群 (文献4)
- 網膜色素変性症
- 高度近視
- 外傷
- 硝子体手術後の例も散見
治療
- 術式は煩雑
- IOLの摘出
- 新しいIOLの逢着または、強膜内固定
眼内レンズ混濁
症状
- カルシウム沈着 (親水性IOL工学部にリン酸カルシウム沈着): 著しい視力低下
- グリスニング (水層分離、生体内の温度変化によるIOLの変質: 疎水性アクリル素材の給水率の変化), 1~10μmの水分子
- ホワイトニング (sub-surface nano glistening, 水層分離現象と言われる), 100nmの水分子、式のうに対する影響は少ない。
治療
- カルシウム沈着: IOL摘出交換
- グリスニング, ホワイトニング : IOL摘出交換は少ない
まとめ
白内障は、高性能な手術機器や眼内レンズが日々開発され、手術自体は15分程度、手術室に入ってからの消毒などの準備を含めると30分程度で完了する、非常に簡便な治療になりました。
しかし、その後の合併症などもあるため、定期的な検診は必要です。今回、私自身が白内障治療を経験したことを契機に、どのような合併症があるのかについてまとめました。ご参考になれば幸いです。
以上
編集履歴
2020/03/22 はりきり(Mr)
2020/03/30 追記 (一過性眼圧上昇などの後遺症関連)
2020/05/09 追記 (まとめ)、文言整備
参考
文献1
白内障術後合併症, 松島博之, 日本白内障学会誌 29:65~68, 2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cataract/29/1/29_09-016/_pdf/-char/ja
文献2
白内障と白内障手術
http://www.asahi-net.or.jp/~PD2K-NIM/intraocularlens/
文献3
水晶体における創傷治癒とインテグリン発現の変化, 1999-2000, KAKEN
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11771074/
“アクリル製レンズには他のレンズに比較して、ファイブロネクチンなどの細胞外基質が有意に付着しやすいと報告されており、以前の結果と合わせて考えると細胞外基質が水晶体上皮細胞の線維芽細胞様変化に密接に関わっていることが判明した。“
文献4
落屑症候群 (らくせつしょうこうぐん, exfoliation syndrome)
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1410900095
高齢者の水晶体前面や虹彩の瞳孔縁に灰白色のふけ様落屑を生じる原因不明の疾患子ある。ふけ様落屑そのものは視機能に直接の影響を与えないが,落屑症候群患者では難治性の緑内障を伴うことが多い。
文献5
手術時に「断裂リスク」が…チン小帯が弱る3つの原因とは?
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1410900095
Zinn小帯に関する文献。毛様体と水晶体嚢を繋いでいる紐状のもの。昔、私が中学生の頃に覚えたのは、「毛様体筋」でした。
文献6
白内障・眼内レンズ手術 – ISHINKAI GROUP – より
https://www.ocular.net/treatment/cataract/symptom.html
文献7
白内障の手術に関する、よくある質問 – 森井眼科医院 – より
https://morii-ganka.jp/operate/cataract/cataract05.html
人工レンズの寿命、術後の点眼期間