クロマト精製と組合わせ技
沈殿化 (precipitation)
概要
沈殿による精製方法も使える状況は多い。例えば、沈殿化しやすい蛋白質の場合、それを活用するのが効率的な場合もある。人工的にデザインした、ある蛋白質の部分的なドメインを精製する場合、そのドメインは自然界には無い人工的な物質であることで、物理化学的性質が通常とは異なっていることが想定される。
そのような物質であるケースでは、少しの食塩の添加により電気伝導度(conductivity)が上がっただけで、沈殿化する場合がある。これは、しめたもんだ。喜んで沈殿物を回収して、その純度を確認しよう。
塩濃度を上げて沈殿化させる場合、pHは低い方が沈殿化しやすい。これも活用できる。
- 塩の添加
- NaClで沈殿化できればラッキー
- その他、硫酸アンモニウム
- pHを5以下に下げる
- タンパク質溶液のpHを下げる場合、HClは希塩酸でも禁忌!。タンパク変性が強い
- 酢酸(Acidic Acid)がマイルド。ただし、高濃度の酢酸は、逆に効果となる。
物性を活用する
沈殿法の原理について確認しておこう。厳密な定義はないものの、アミノ酸が数珠つなぎになったもので、数十個程度ではペプチド (Peptide)と呼ばれ、更に大きくなり分子量が5000 (5kDa)以上で蛋白質 (Protein)と呼ばれる。
アミノ酸の種類により塩基性、酸性、疎水性の特性があり、これらの数珠つなぎとしての全体の特性が、ある蛋白質の総体的な物性を示すことになる。蛋白質は、絡まない紐のように存在しているのではなく、折れ曲がったり、巻いていたり、アミノ酸同士の物性に応じた相互的に引き合って入り反発しあっていたりと関係性が生じており、その状況は、存在している溶液中の塩濃度、pHや共存している溶剤の影響をうけて、その立体的な構造が形作られる。
そのためアミノ酸の配列依存的に、その立体構造が確定するものの、周りの状況により影響をうけるため、一意的に決まるものではない。まさに、それこそがある蛋白質の物性ということである。セントラルドグマなどいいう言葉も聞いたことがあるが、僕は、そのような理論はよく知らない。
沈殿法の種類
- 塩析
- 飽和劉安
- NaCl
- リン酸カリウム
- グリシン塩析
- 有機溶剤による沈殿
- EtOH沈殿 : CORN Ethanol Fractionationが有名である。
- アセトン沈殿
- pHを下げる
- pH6より低いpHに調整
- 蛋白質によっては、中性pHで沈殿化するためpH8などのアルカリ性にする場合もある
沈殿法(参考ページ)
膜で不純物を吸着除去
Depth filterという製品群がある。当然、日本製では製品はないが、外国製のPall MilliporeやSartorius Stedim, 3M, GE Helthcareなどのメーカーを当たれば良い製品が見つけられる。
Depth filterの用途は一般的に、清澄ろ過であるが、膜に土や活性炭を練りこんでいる製品もあり、清澄化とともに不純物の吸着除去も同時に実現できる。抗体医薬の場合、陰イオン交換体のDepth filterでろ過することで、DNAなど負荷電の不純物が吸着し、抗体はパススルーする。これらの製品は、昔、僕らが鉱物由来であるミドライトなど、粘土を使ってInterferon (IFN)を精製していた時の技術の焼き直しである。トラディショナルな技術は、今も息づいている。
濃縮とバッファ交換 (Concentration and Diafiltration)
40年より前では、ホローファイバーで目的の蛋白質などを濃縮していた。この技術は還元濃縮みかんジュースなどで、今でも使われている。40年前に当時のメンブランメーカーであったミリポア社が限外濾過膜で平膜を開発し、画期的な構造の濃縮装置を開発した。ホローファイバーを使用して濃縮した場合、1週間かかるところを、この装置を使うと2時間で濃縮が完了してしまうほどの破壊的な技術であつた。そう、この装置をベリコン (Pellicon)という。
短時間で濃縮が可能となると、これまでの濃縮に加え、溶液の組成置換も実施できるようになり、濃縮とバッファ置換は同義となった (Concentration and Diafiltration)。
限外濾過膜の濃縮側にEndotoxinを残し、目的タンパク質をろ過
実は、限外濾過処理を応用して、目的蛋白質と発熱製物質であるEndotoxinを分離分別可能である。Endotoxinは、ミセルを作っているので、見かけの分子量は100kDa以上になっているため、目的タンパク質が100kDa以下の場合、ろ過液に目的蛋白質を回収することができる。
限外ろ過膜 (ultrafilter)
- 限外ろ過膜には、平膜,ホローファイバーがある
- 処理目的は、膜が持つ性能である分画分子量以下の低分子画分をろ過しすることで、循環システムから排除する。高分子画分は、残留させることで、循環システムに残留させる
- ホローファイバーは、製造方法から簡単であったことから従来から使用されていたが、1980年代に膜メーカーのmillipore者が平膜の限外濾過膜を開発してベリコン膜と呼ばれ普及した。
- 平膜では膜面と並行に目的溶液を流しながら(クロスフロー: cross flow),膜面に圧力を掛けることで、膜の分画分子量より大きい分子量画分を膜面を滑らせるとともに、小さい分子量画分をろ過する.ウイルス除去処理用フィルターもmilliporeが開発している。
- ホローファイバーでは,平膜と同様の原理を使えるが中空糸構造であることから,そのオリフィス径(液が通る断面積)は小さいため,濃縮による不溶性異物により目詰まりしてろ過効率が低下しやすいが、バイオ医薬品の製造では必須でいるウイルス除去ファイルターはボローファイバーが使用されている。その場合、デッドエンド法が使われ、ファイバーの先端から末端に向けて処理液を送液する際、末端をデッドエンドにして圧力をかけることでファイバーの外側に濾過液が滲み出る原理の方法である。細胞を含む培養液の成長ろ過にホローファイバーが使用される場合は、クロスフロー法が使用される。
平膜とホローファイバーの比較
| 比較 | follow fiber | cross flow |
| 流路 | 絶対的に狭い。ファイバーを増やしても内径は狭いまま | 理論的には膜幅と膜と膜との間隔だけ面積に相当する広い流路 |
| 循環流速 | 早くできない | 早くできる |
| 処理速度 | 遅い | 早い |
| 適用 | 低い粘度の溶液処理。培養液の清澄ろ過 | 低濃度から高濃度タンパク質のろ過・濃縮 |
| 製品 | Planova 20N (ASAHI-KASEI) | Pellicon (Pall-Millipore), (Sartorius), (Novasep) |
参考文献