― 品質・生産性・環境負荷を同時に考える時代へ ―
目次
- ― 品質・生産性・環境負荷を同時に考える時代へ ―
- 1. なぜバイオプロセスでサステナビリティが重要なのか
- 2. プロセス設計が資源使用量を左右する
- 3. シングルユース技術は本当に環境に良いのか
- 4. 「バイオベース材料」と「Greener by Design」(2ページ)
- 5. プロセス最適化は環境負荷低減そのもの(2ページ)
- 6. GMPとの関係:環境負荷低減だけを優先してはいけない(2ページ)
- 7. 実務で使えるチェックリスト(2ページ)
- 8. 今後の方向性(2ページ)
バイオ医薬品の製造では、品質、安全性、安定供給が最優先であることに変わりはありません。一方で、近年は製造工程における水、エネルギー、原材料、廃棄物、施設ユーティリティの使用量をどのように抑えるかも、重要な課題になっています。
バイオプロセスにおけるサステナビリティとは、単に「環境に良い材料を使う」という意味ではありません。開発初期のプロセス設計、設備選定、シングルユース技術の採用、洗浄工程、空調、精製工程、廃棄物処理までを含めて、製品品質を維持しながら、製造全体の環境負荷を下げる考え方です。
Thermo Fisher Scientific の解説では、バイオプロセスのサステナビリティを、製品設計、調達、製造、輸送、使用後のリサイクル・廃棄まで含めて評価する取り組みとして説明しています。特に、プロセス設計の早い段階での判断が、その後の水使用量、エネルギー消費、洗浄薬液、施設面積、HVACなどの負荷に影響するとされています。
なかでも、バイオ医薬品製造における水の問題は避けて通れない重要課題です。細胞培養、培地・バッファー調製、精製、洗浄、滅菌、冷却、蒸気発生など、多くの工程で大量の水が使用されます。また、医薬品製造では単に水の量が確保できればよいわけではなく、精製水やWFIなど、用途に応じた水質を安定的に維持する必要があります。そのため、製造所の立地を考える際には、水資源の量だけでなく、水質、供給安定性、排水処理能力、災害時のリスク、地域社会との水資源共有も含めて検討することが重要です。
したがって、バイオプロセスのサステナビリティでは、水使用量を削減する工程設計、洗浄・滅菌負荷の低減、シングルユース技術の適切な活用、バッファー調製量の最適化などを通じて、品質を維持しながら水資源への依存を下げる取り組みが求められます。
1. なぜバイオプロセスでサステナビリティが重要なのか
バイオ医薬品の製造では、細胞培養、培地調製、バイオリアクター運転、ハーベスト、クロマトグラフィー、UF/DF、充填、洗浄、滅菌、保管など、多くの工程で大量の水とエネルギーが使用されます。
特に大きな負荷となりやすいのは、以下のような項目です。
| 項目 | 環境負荷につながる主な要因 |
|---|---|
| 水 | WFI、精製水、CIP、SIP、洗浄、バッファー調製 |
| エネルギー | HVAC、冷却、加温、滅菌、圧縮空気、冷蔵・冷凍保管 |
| 原材料 | 培地、バッファー、樹脂、フィルター、シングルユースバッグ |
| 廃棄物 | プラスチック廃棄物、フィルター、培養廃液、包装材 |
| 施設 | クリーンルーム面積、空調負荷、ユーティリティ設備 |
ここで重要なのは、環境負荷の多くが「製造開始後」ではなく、プロセス設計と設備選定の段階でほぼ決まってしまう点です。たとえば、ステンレス固定設備を中心にするのか、シングルユース設備を活用するのか、培養スケールをどうするのか、収率をどこまで高めるのか、といった判断が、長期的な水・エネルギー・廃棄物量に影響します。
ISPEも、医薬品製造におけるサステナビリティを、環境影響と健康・安全リスクを評価・管理するためのシステムやプロセスの実装として位置づけています。
2. プロセス設計が資源使用量を左右する
バイオプロセスの環境負荷を下げるうえで、最初に考えるべきなのは「どの材料を使うか」だけではなく、どのようなワークフローにするかです。
たとえば、以下のような設計は資源使用量の削減につながります。
| 設計上の工夫 | 期待される効果 |
|---|---|
| 高密度培養 | 同じ設備面積でより多くの産物を得られる |
| 収率改善 | 1 gあたりの水・エネルギー・原材料使用量を低減 |
| 工程時間短縮 | HVAC、撹拌、冷却、保管などの稼働時間を低減 |
| 閉鎖系プロセス | 清浄度管理、汚染リスク、作業負荷の低減 |
| シングルユース化 | CIP/SIP、水、蒸気、洗浄薬液の削減 |
| 工程統合 | 中間保管、移送、洗浄、設備占有時間の削減 |
Thermo Fisher のページでも、細胞密度の向上、収率改善、バッチサイクル短縮により、施設の生産性を高めつつ、バッチあたりの資源使用量を削減できると説明されています。また、上流工程の改善が、ハーベスト、精製、充填工程の負荷低減にもつながる点が強調されています。
3. シングルユース技術は本当に環境に良いのか
バイオプロセスのサステナビリティでよく議論されるのが、シングルユース技術です。
シングルユースバッグ、チューブ、フィルター、ミキサー、バイオリアクターなどは、使用後に廃棄物が発生します。そのため、一見すると環境負荷が高いように見えます。
しかし、固定式ステンレス設備では、洗浄、滅菌、CIP、SIP、WFI、蒸気、洗浄バリデーション、設備占有時間が必要になります。これに対してシングルユース技術では、洗浄・滅菌に関わる水やエネルギーを削減でき、施設面積やユーティリティ設備を小さくできる場合があります。
つまり、シングルユース技術の評価では、単に「プラスチック廃棄物が出るかどうか」だけでなく、ライフサイクル全体での評価が必要です。LCA、すなわちライフサイクルアセスメントは、原材料調達、製造、輸送、使用、廃棄までを含めて環境影響を評価する手法です。ISPEは、LCAがサービス、設備、工程、製品の排出量、エネルギー、活動量を特定する科学的手法として主流になってきていると説明しています。
一方で、シングルユース技術の弱点は使用後の処理です。多くの部材は複合材料であり、バイオハザード性の有無、汚染状態、材質構成、施設の分別能力、地域の廃棄物処理インフラによって、リサイクルの可否が変わります。BPSAの資料でも、培地・バッファー調製や保管に使われるバッグは比較的リサイクル検討の対象になりやすい一方、使用後バッグの危険性、分別、機械的リサイクル性、再生材の品質などが課題として挙げられています。
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