日米欧の比較
日米欧のGMPは「同じ目的だが、法的位置づけと文書体系が異なる」ため、PIC/Sを軸にして整理する.
日米欧のGMPとPIC/S GMPの関係は、簡単にいうと以下です。
| 地域 | 法的なGMPの中心 | PIC/S GMPとの関係 | 実務上の見方 |
|---|---|---|---|
| 日本 | GMP省令、薬機法、施行通知、事務連絡 | 日本のGMP当局はPIC/S加盟。PIC/S GMPを参考・整合対象として活用 | 日本法令+PIC/S整合 |
| 米国 | 21 CFR Parts 210/211などFDA cGMP | FDAはPIC/S加盟。ただし米国法令体系は独自 | FDA cGMPが法的基準、PIC/Sは国際調和の枠組み |
| EU | EudraLex Volume 4 EU GMP Guide | EU GMPとPIC/S GMPはGMP要求事項としてほぼ同等とされる | EU GMP ≒ PIC/S GMP |
| PIC/S | 国際的なGMP査察当局間の協力スキーム | 法律そのものではなく、査察・GMP基準調和の共通基盤 | 各国GMPを近づける共通言語 |
つまり、EU GMPとPIC/S GMPは最も近く、日本はPIC/S加盟後にPIC/S整合を強め、米国は独自のcGMP法体系を維持しつつPIC/Sに参加している、という理解が適切です。
【根拠】
PIC/Sは、医薬品GMP分野における規制当局間の協力枠組みであり、PIC/S GMP Guideを発行しています。現行のPIC/S GMP Guideは PE 009-17 として、Introduction、Part I、Part II、Annexesに分かれて公開されています。
EU側では、EMAが「PIC/S GMP Guideは、GMP要求事項の面でEU GMP Guidelinesと同等」と説明しています。したがって、EU GMPとPIC/S GMPは、文書体系・運用主体は異なりますが、実質的なGMP要求は非常に近い関係にあります。
米国では、FDAのcGMP規制として 21 CFR Part 210、Part 211、Part 212、Part 600 などが示されています。特に21 CFR Part 211は、ヒトまたは動物用医薬品の製剤に関する最低限のcGMP要求を定める規則です。
PIC/S公式の加盟当局リストには、米国FDAが 2011年1月 にPIC/S Schemeへ加盟したこと、日本ではMHLW・PMDAが1つのPIC/S加盟当局として扱われ、都道府県はMHLWにより代表されること、そして日本の加盟が 2014年7月 であることが示されています。
PMDAは、GMP適合性調査に関するページで、PIC/S GMP Guideの活用に関する事務連絡を掲載しています。これは、日本のGMP運用がPIC/S GMPを国際整合の重要な参照基準として扱っていることを示します。
【日米欧とPIC/Sの関係】
1. 日本:GMP省令が法的基準、PIC/S GMPは国際整合の参照軸
日本では、直接の法的基準は GMP省令、薬機法、関連通知 です。PIC/S GMP Guideそのものが日本の法律になるわけではありません。
ただし、日本のGMP当局はPIC/Sに加盟しており、MHLW、PMDA、都道府県の査察体制はPIC/Sの枠組みと整合する方向で運用されています。実務上は、国内GMP省令を満たすだけでなく、PIC/S GMPの考え方、特に以下を意識する必要があります。
| 項目 | 日本での実務的意味 |
|---|---|
| Pharmaceutical Quality System | 品質システム、品質保証体制、経営層の関与 |
| Quality Risk Management | ICH Q9に基づくリスクベース管理 |
| Annex 1 | 無菌医薬品製造 |
| Annex 11 | コンピュータ化システム |
| Annex 15 | 適格性評価・バリデーション |
| Part II | 原薬GMP、ICH Q7相当 |
日本では、GMP省令+施行通知+PIC/S GMPを参照した査察対応という形で「融合」しています。
2. 米国:FDA cGMPが法的基準、PIC/Sは査察協力・調和の枠組み
米国では、GMPの法的中心はFDAの cGMP regulations です。代表的には以下です。
| 米国規則 | 対象 |
|---|---|
| 21 CFR Part 210 | 医薬品の製造・加工・包装・保管に関するcGMP一般 |
| 21 CFR Part 211 | Finished Pharmaceuticals、製剤のcGMP |
| 21 CFR Part 212 | PET医薬品 |
| 21 CFR Part 600 | Biological Products一般 |
米国FDAもPIC/S加盟当局ですが、FDA査察では基本的に 21 CFR、FDA Guidance、Compliance Program、Warning Letter等のFDA体系が中心です。
PIC/S GMPと米国cGMPは目的・原則は類似しています。たとえば、品質システム、文書化、逸脱管理、バリデーション、変更管理、OOS、データインテグリティ、設備管理などは共通します。
ただし、文書構成はかなり異なります。
| 観点 | FDA cGMP | PIC/S GMP |
|---|---|---|
| 文書形式 | CFRという法規制中心 | Guide + Annex形式 |
| 表現 | 規則文として比較的簡潔 | EU GMPに近く、章・Annexで具体化 |
| 査察後文書 | Form FDA 483、Warning Letter等 | 各加盟当局の査察報告・GMP証明等 |
| Annex体系 | PIC/S型Annexはない | Annex 1、11、15などが重要 |
したがって米国は、PIC/Sに参加しているが、GMP文書体系はFDA独自色が強いと理解するのがよいです。
3. EU:EU GMPとPIC/S GMPは最も近い
EUでは、GMPの中心文書は EudraLex Volume 4 です。欧州委員会はEudraLex Volume 4をEUのGMPガイドラインとして公開しています。
EU GMPは、PIC/S GMPと非常に近い構成を持ちます。
| EU GMP | PIC/S GMP |
|---|---|
| Part I | Part I |
| Part II | Part II |
| Annexes | Annexes |
| Annex 1, 11, 15など | Annex 1, 11, 15など |
EMAは、PIC/S GMP GuideがEU GMP GuidelinesとGMP要求事項の面で同等であると説明しています。
したがってEUについては、EU GMP ≒ PIC/S GMP と表現してよい場面が多いです。ただし、EUにはQualified Person、EU販売承認、MIA、輸入、EU固有の法令・手続きがあるため、完全に同一ではありません。
【融合・類似の整理】
共通するGMP思想
日米欧・PIC/Sで共通する基本思想は以下です。
| 共通概念 | 内容 |
|---|---|
| 品質は試験だけで保証できない | 製造工程、設備、原材料、作業員、文書、QA体制で作り込む |
| 文書化 | 手順書、記録、逸脱、変更、CAPAを残す |
| バリデーション | 工程・洗浄・分析・コンピュータ化システム等を適格化・検証する |
| 品質リスクマネジメント | リスクに応じて管理水準を決める |
| データインテグリティ | ALCOA+等の考え方に基づき、記録の信頼性を守る |
| サプライチェーン管理 | 原材料、委託先、輸送、保管を管理する |
| 継続的改善 | 苦情、逸脱、OOS、査察指摘、PQR/APR等を改善につなげる |
ここはかなり融合しています。ICH Q7、Q8、Q9、Q10、Q12などの国際調和文書も、日米欧のGMP実務の共通化に大きく寄与しています。
違いが残る部分
| 項目 | 日本 | 米国 | EU |
|---|---|---|---|
| 法的基準 | GMP省令・薬機法・通知 | FD&C Act、21 CFR | EU法、EudraLex Volume 4、各国当局 |
| 品質保証責任 | 製造業者+製造販売業者、GQPとの関係が重要 | Manufacturer責任、Quality Unit重視 | 製造販売承認保持者、製造業者、QP責任 |
| 出荷判定 | 日本のGMP/GQP体制で判断 | Quality Unitが大きな役割 | Qualified Person制度が特徴 |
| 文書体系 | 省令+通知+事務連絡+PIC/S参照 | CFR+FDA Guidance | EU GMP Guide+Annex |
| PIC/Sとの距離 | かなり近いが日本法令が優先 | 参加しているがFDA体系が優先 | PIC/Sと最も近い |
【実務での読み替え】
医薬品製造所がグローバル対応する場合、実務的には以下のように読み替えると分かりやすいです。
| 実務テーマ | 日本 | 米国 | EU/PIC/S |
|---|---|---|---|
| 無菌製造 | GMP省令・通知+PIC/S Annex 1 | 21 CFR、FDA Guidance、無菌製造ガイダンス | Annex 1 |
| 原薬 | GMP省令+ICH Q7相当 | ICH Q7、FDA cGMP運用 | Part II |
| コンピュータ化システム | 日本のCSV関連通知+PIC/S Annex 11 | FDA 21 CFR Part 11、CSV、データインテグリティ | Annex 11 |
| バリデーション | 日本通知+PIC/S Annex 15 | FDA Process Validation Guidance | Annex 15 |
| 品質システム | GMP省令、GQPとの接続 | Quality Unit、Quality Systems Approach | Chapter 1、ICH Q10 |
つまり、製造所の品質システムを作るときは、PIC/S GMPを共通骨格にし、米国向けはFDA要求、EU向けはEU固有要求、日本向けはGMP省令・GQP接続を上乗せするのが現実的です。
【模式図】
ICH Q7/Q9/Q10/Q12 など
│
▼
┌────────────────────────────────┐
│ 国際的に共通するGMP思想 │
│ 品質システム・リスク管理・文書化 │
│ バリデーション・DI・CAPA・PQR/APR │
└────────────────────────────────┘
│ │ │
▼ ▼ ▼
┌──────────────┐ ┌────────────────┐ ┌────────────────┐
│ 日本GMP │ │ 米国FDA cGMP │ │ EU GMP │
│ GMP省令 │ │ 21 CFR 210/211 │ │ EudraLex Vol.4 │
│ 通知・事務連絡 │ │ FDA Guidance │ │ Annex体系 │
└──────────────┘ └────────────────┘ └────────────────┘
│ │ │
└───────┬──────┴──────┬───────┘
▼ ▼
┌────────────────────────┐
│ PIC/S GMP │
│ 査察当局間の国際調和 │
│ PE 009 Part I/II/Annex │
└────────────────────────┘
【注意点・例外】
PIC/S GMPは国際的に重要ですが、各国の法律そのものではありません。日本ではGMP省令、米国では21 CFR、EUではEU法・EudraLexが直接の規制体系です。
「PIC/Sに適合していればFDA査察も必ず問題ない」とは言えません。FDAはFDA独自の解釈、483、Warning Letter、Guidance、Compliance Programに基づき判断します。
「EU GMPとPIC/S GMPは同じ」と説明されることは多いですが、EU固有のQP制度、輸入管理、販売承認制度、MIAなどはPIC/S GMPだけでは説明しきれません。
日本では、GMPとGQPの接続が重要です。製造所のGMPだけでなく、製造販売業者の市場出荷、品質情報、変更管理、委託先管理との関係も考える必要があります。
重要な査察対応、承認申請、海外当局対応、品質システム設計では、対象国の最新法令・通知・ガイダンスを確認し、必要に応じて専門家に確認が必要です。
【出典】
- PIC/S Publications – PIC/S GMP Guide PE 009-17
- PIC/S Members – List of PIC/S Participating Authorities
- EMA – The Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme
- European Commission – EudraLex Volume 4
- FDA – Current Good Manufacturing Practice CGMP Regulations
- eCFR – 21 CFR Part 211
- PMDA – GMP compliance inspection
【確実性: 高】
コメントを残す