PIC/S GMPとは,Annexとは [2026/06/03]

日米欧の比較

日米欧のGMPは「同じ目的だが、法的位置づけと文書体系が異なる」ため、PIC/Sを軸にして整理する.

日米欧のGMPとPIC/S GMPの関係は、簡単にいうと以下です。

地域法的なGMPの中心PIC/S GMPとの関係実務上の見方
日本GMP省令、薬機法、施行通知、事務連絡日本のGMP当局はPIC/S加盟。PIC/S GMPを参考・整合対象として活用日本法令+PIC/S整合
米国21 CFR Parts 210/211などFDA cGMPFDAはPIC/S加盟。ただし米国法令体系は独自FDA cGMPが法的基準、PIC/Sは国際調和の枠組み
EUEudraLex Volume 4 EU GMP GuideEU GMPとPIC/S GMPはGMP要求事項としてほぼ同等とされるEU GMP ≒ PIC/S GMP
PIC/S国際的なGMP査察当局間の協力スキーム法律そのものではなく、査察・GMP基準調和の共通基盤各国GMPを近づける共通言語

つまり、EU GMPとPIC/S GMPは最も近く、日本はPIC/S加盟後にPIC/S整合を強め、米国は独自のcGMP法体系を維持しつつPIC/Sに参加している、という理解が適切です。


【根拠】

PIC/Sは、医薬品GMP分野における規制当局間の協力枠組みであり、PIC/S GMP Guideを発行しています。現行のPIC/S GMP Guideは PE 009-17 として、Introduction、Part I、Part II、Annexesに分かれて公開されています。

EU側では、EMAが「PIC/S GMP Guideは、GMP要求事項の面でEU GMP Guidelinesと同等」と説明しています。したがって、EU GMPとPIC/S GMPは、文書体系・運用主体は異なりますが、実質的なGMP要求は非常に近い関係にあります。

米国では、FDAのcGMP規制として 21 CFR Part 210、Part 211、Part 212、Part 600 などが示されています。特に21 CFR Part 211は、ヒトまたは動物用医薬品の製剤に関する最低限のcGMP要求を定める規則です。

PIC/S公式の加盟当局リストには、米国FDAが 2011年1月 にPIC/S Schemeへ加盟したこと、日本ではMHLW・PMDAが1つのPIC/S加盟当局として扱われ、都道府県はMHLWにより代表されること、そして日本の加盟が 2014年7月 であることが示されています。

PMDAは、GMP適合性調査に関するページで、PIC/S GMP Guideの活用に関する事務連絡を掲載しています。これは、日本のGMP運用がPIC/S GMPを国際整合の重要な参照基準として扱っていることを示します。


【日米欧とPIC/Sの関係】

1. 日本:GMP省令が法的基準、PIC/S GMPは国際整合の参照軸

日本では、直接の法的基準は GMP省令、薬機法、関連通知 です。PIC/S GMP Guideそのものが日本の法律になるわけではありません。

ただし、日本のGMP当局はPIC/Sに加盟しており、MHLW、PMDA、都道府県の査察体制はPIC/Sの枠組みと整合する方向で運用されています。実務上は、国内GMP省令を満たすだけでなく、PIC/S GMPの考え方、特に以下を意識する必要があります。

項目日本での実務的意味
Pharmaceutical Quality System品質システム、品質保証体制、経営層の関与
Quality Risk ManagementICH Q9に基づくリスクベース管理
Annex 1無菌医薬品製造
Annex 11コンピュータ化システム
Annex 15適格性評価・バリデーション
Part II原薬GMP、ICH Q7相当

日本では、GMP省令+施行通知+PIC/S GMPを参照した査察対応という形で「融合」しています。


2. 米国:FDA cGMPが法的基準、PIC/Sは査察協力・調和の枠組み

米国では、GMPの法的中心はFDAの cGMP regulations です。代表的には以下です。

米国規則対象
21 CFR Part 210医薬品の製造・加工・包装・保管に関するcGMP一般
21 CFR Part 211Finished Pharmaceuticals、製剤のcGMP
21 CFR Part 212PET医薬品
21 CFR Part 600Biological Products一般

米国FDAもPIC/S加盟当局ですが、FDA査察では基本的に 21 CFR、FDA Guidance、Compliance Program、Warning Letter等のFDA体系が中心です。

PIC/S GMPと米国cGMPは目的・原則は類似しています。たとえば、品質システム、文書化、逸脱管理、バリデーション、変更管理、OOS、データインテグリティ、設備管理などは共通します。

ただし、文書構成はかなり異なります。

観点FDA cGMPPIC/S GMP
文書形式CFRという法規制中心Guide + Annex形式
表現規則文として比較的簡潔EU GMPに近く、章・Annexで具体化
査察後文書Form FDA 483、Warning Letter等各加盟当局の査察報告・GMP証明等
Annex体系PIC/S型AnnexはないAnnex 1、11、15などが重要

したがって米国は、PIC/Sに参加しているが、GMP文書体系はFDA独自色が強いと理解するのがよいです。


3. EU:EU GMPとPIC/S GMPは最も近い

EUでは、GMPの中心文書は EudraLex Volume 4 です。欧州委員会はEudraLex Volume 4をEUのGMPガイドラインとして公開しています。

EU GMPは、PIC/S GMPと非常に近い構成を持ちます。

EU GMPPIC/S GMP
Part IPart I
Part IIPart II
AnnexesAnnexes
Annex 1, 11, 15などAnnex 1, 11, 15など

EMAは、PIC/S GMP GuideがEU GMP GuidelinesとGMP要求事項の面で同等であると説明しています。

したがってEUについては、EU GMP ≒ PIC/S GMP と表現してよい場面が多いです。ただし、EUにはQualified Person、EU販売承認、MIA、輸入、EU固有の法令・手続きがあるため、完全に同一ではありません。


【融合・類似の整理】

共通するGMP思想

日米欧・PIC/Sで共通する基本思想は以下です。

共通概念内容
品質は試験だけで保証できない製造工程、設備、原材料、作業員、文書、QA体制で作り込む
文書化手順書、記録、逸脱、変更、CAPAを残す
バリデーション工程・洗浄・分析・コンピュータ化システム等を適格化・検証する
品質リスクマネジメントリスクに応じて管理水準を決める
データインテグリティALCOA+等の考え方に基づき、記録の信頼性を守る
サプライチェーン管理原材料、委託先、輸送、保管を管理する
継続的改善苦情、逸脱、OOS、査察指摘、PQR/APR等を改善につなげる

ここはかなり融合しています。ICH Q7、Q8、Q9、Q10、Q12などの国際調和文書も、日米欧のGMP実務の共通化に大きく寄与しています。


違いが残る部分

項目日本米国EU
法的基準GMP省令・薬機法・通知FD&C Act、21 CFREU法、EudraLex Volume 4、各国当局
品質保証責任製造業者+製造販売業者、GQPとの関係が重要Manufacturer責任、Quality Unit重視製造販売承認保持者、製造業者、QP責任
出荷判定日本のGMP/GQP体制で判断Quality Unitが大きな役割Qualified Person制度が特徴
文書体系省令+通知+事務連絡+PIC/S参照CFR+FDA GuidanceEU GMP Guide+Annex
PIC/Sとの距離かなり近いが日本法令が優先参加しているがFDA体系が優先PIC/Sと最も近い

【実務での読み替え】

医薬品製造所がグローバル対応する場合、実務的には以下のように読み替えると分かりやすいです。

実務テーマ日本米国EU/PIC/S
無菌製造GMP省令・通知+PIC/S Annex 121 CFR、FDA Guidance、無菌製造ガイダンスAnnex 1
原薬GMP省令+ICH Q7相当ICH Q7、FDA cGMP運用Part II
コンピュータ化システム日本のCSV関連通知+PIC/S Annex 11FDA 21 CFR Part 11、CSV、データインテグリティAnnex 11
バリデーション日本通知+PIC/S Annex 15FDA Process Validation GuidanceAnnex 15
品質システムGMP省令、GQPとの接続Quality Unit、Quality Systems ApproachChapter 1、ICH Q10

つまり、製造所の品質システムを作るときは、PIC/S GMPを共通骨格にし、米国向けはFDA要求、EU向けはEU固有要求、日本向けはGMP省令・GQP接続を上乗せするのが現実的です。


【模式図】

                         ICH Q7/Q9/Q10/Q12 など
                                  │
                                  ▼
              ┌────────────────────────────────┐
              │      国際的に共通するGMP思想      │
              │ 品質システム・リスク管理・文書化    │
              │ バリデーション・DI・CAPA・PQR/APR │
              └────────────────────────────────┘
                    │              │              │
                    ▼              ▼              ▼
          ┌──────────────┐ ┌────────────────┐ ┌────────────────┐
          │ 日本GMP       │ │ 米国FDA cGMP   │ │ EU GMP         │
          │ GMP省令       │ │ 21 CFR 210/211 │ │ EudraLex Vol.4 │
          │ 通知・事務連絡 │ │ FDA Guidance  │ │ Annex体系       │
          └──────────────┘ └────────────────┘ └────────────────┘
                    │              │              │
                    └───────┬──────┴──────┬───────┘
                            ▼             ▼
                    ┌────────────────────────┐
                    │       PIC/S GMP        │
                    │ 査察当局間の国際調和       │
                    │ PE 009 Part I/II/Annex │
                    └────────────────────────┘

【注意点・例外】

PIC/S GMPは国際的に重要ですが、各国の法律そのものではありません。日本ではGMP省令、米国では21 CFR、EUではEU法・EudraLexが直接の規制体系です。

「PIC/Sに適合していればFDA査察も必ず問題ない」とは言えません。FDAはFDA独自の解釈、483、Warning Letter、Guidance、Compliance Programに基づき判断します。

「EU GMPとPIC/S GMPは同じ」と説明されることは多いですが、EU固有のQP制度、輸入管理、販売承認制度、MIAなどはPIC/S GMPだけでは説明しきれません。


日本では、GMPとGQPの接続が重要です。製造所のGMPだけでなく、製造販売業者の市場出荷、品質情報、変更管理、委託先管理との関係も考える必要があります。

重要な査察対応、承認申請、海外当局対応、品質システム設計では、対象国の最新法令・通知・ガイダンスを確認し、必要に応じて専門家に確認が必要です。


【出典】

【確実性: 高】

総PV:5,821 (+0 / 基準日: 2026-06-03)

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