GMPにおけるOOT(Out of Trend)試験結果の取扱い
目次
- GMPにおけるOOT(Out of Trend)試験結果の取扱い
- 1. OOTとは何か
- 2. OOTとOOSの違い
- 3. なぜGMPでOOT管理が重要なのか
- 4. OOT発見時の初動対応
- 5. OOT調査の基本フロー
- 6. 再試験と再サンプリングの考え方(2ページ)
- 7. 安定性試験におけるOOT(2ページ)
- 8. OOT調査で確認すべきGMP上の観点(2ページ)
- 9. CAPAとトレンドレビュー(2ページ)
- 10. ブログ読者向けの実務メッセージ(2ページ)
医薬品の品質試験では、試験結果が規格に適合していれば問題ない、と単純に判断できるとは限りません。
試験結果が規格内であっても、過去の結果、安定性試験の推移、工程実績、製品特性から見て通常の傾向から外れている場合があります。このような結果は一般に OOT:Out of Trend と呼ばれます。
OOTは、OOS(Out of Specification:規格外)とは異なり、直ちに規格不適合を意味するものではありません。しかし、GMP上は「工程または試験が管理状態から外れつつある兆候」として扱うべき重要な品質シグナルです。
EU GMP Chapter 6では、品質管理部門が利用できる文書として、OOSおよびOOT結果の調査手順を持つことが求められており、OOTはGMP上も無視できない管理対象です。
1. OOTとは何か
OOTとは、試験結果が規格内にあるものの、過去の結果や期待される傾向から外れている状態を指します。OOTは,「規格内ではあるが、分析または工程が管理状態から外れている可能性を示す結果」との認識も必要です。特に安定性試験では、前回測定時点または初期値から見て通常の推移に従わない結果として扱われます。
例えば、以下のようなケースが該当します。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 含量 | 規格内だが、前回より急に3%以上低下した |
| 溶出性 | 規格内だが、平均溶出率が前回より大きく低下した |
| 類縁物質 | 規格内だが、特定不純物が前回より急増した |
| 水分・乾燥減量 | 規格内だが、通常傾向と異なる上昇を示した |
| 工程内試験 | 過去ロットと比較して明らかに偏った値を示した |
重要なのは、OOTは「規格に合っているから問題なし」ではなく、「規格内だが、品質の変化兆候として調査すべき結果」であるという点です。
2. OOTとOOSの違い
OOTとOOSは混同されやすいですが、GMP上の意味は異なります。
| 区分 | 意味 | GMP上の扱い |
|---|---|---|
| OOS | 規格または承認された判定基準を外れた結果 | 原則としてOOS調査が必要 |
| OOT | 規格内だが、過去傾向や予測傾向から外れた結果 | OOT調査、傾向評価、必要に応じて逸脱・CAPA |
| 異常値・Atypical result | 規格内外を問わず、科学的に説明困難な異常な結果 | 手順に基づく調査が必要 |
FDAのOOSガイダンスでは、OOSは承認申請、DMF、薬局方、または製造業者が設定した規格・判定基準を外れた試験結果と説明されています。OOTはOOSとは別概念ですが、OOS調査の考え方、すなわち「科学的で、記録され、偏りのない調査」はOOTにも応用されます。
3. なぜGMPでOOT管理が重要なのか
OOT管理が重要な理由は、OOTが将来のOOS、安定性不良、工程変動、分析法の問題、保管条件の問題を早期に示す可能性があるためです。
GMPの目的は、最終試験で不良品を発見することではなく、製造工程と品質システムを管理状態に維持し、品質リスクを予防的に管理することです。ICH Q9(R1)は、医薬品品質のさまざまな場面で品質リスクマネジメントを適用できるとしています。OOTは、まさに品質リスクマネジメントの入口となる情報です。
また、ICH Q10は、GMPを含む医薬品品質システムの包括的モデルを示しており、継続的改善、CAPA、変更マネジメント、マネジメントレビューなどを通じて品質システムを運用する考え方を示しています。OOTは単なるQCイベントではなく、医薬品品質システム全体で扱うべき品質シグナルです。
4. OOT発見時の初動対応
OOTが疑われる結果を確認した場合、まず重要なのは、試験担当者が独自判断で再試験や廃棄を行わないことです。
OOTを認めた場合、分析者は直ちに上長または責任者へ報告し、試料溶液、標準液、原液、機器設定などを調査が完了するまで廃棄しないことが示されています。
GMP実務では、以下の初動が重要です。
| 初動項目 | 実務上のポイント |
|---|---|
| 速やかな報告 | 試験者がQC責任者、QAへ報告する |
| 試料・溶液の保全 | 試料、標準液、試験溶液、クロマトデータ、機器設定を保持する |
| 生データ確認 | 計算、転記、積分、システム適合性、装置ログを確認する |
| 記録開始 | OOT調査票または逸脱/ラボ調査票を発行する |
| 再試験の禁止 | 原因調査前に安易な再試験を行わない |
特に「とりあえず再試験して、良い結果が出たら採用する」という対応は、データインテグリティ上の大きな問題になります。
5. OOT調査の基本フロー
OOT調査は、一般に以下の流れで進めます。
5.1 Phase I:初期ラボ調査
まず、試験室内で明確な原因がないか確認します。
確認項目の例は以下です。
| 確認対象 | 確認内容 |
|---|---|
| 試験記録 | 計算ミス、転記ミス、単位ミス、希釈係数ミス |
| クロマトデータ | ピーク積分、保持時間、システム適合性 |
| 標準液・試料液 | 調製手順、濃度、安定性、保存条件 |
| 試薬・カラム | 有効期限、ロット、保管状態 |
| 装置 | 校正状態、メンテナンス、異常ログ |
| 分析者 | 手順理解、操作逸脱、教育訓練状況 |
チェックリスト、生データ確認、分析者への聞き取り、ベンチトップ監査、最終溶液・原液の確認などを行うなどの対応が必要になります。
5.2 明確な原因がある場合
計算ミス、転記ミス、誤ったピーク積分、標準品力価の入力ミスなど、明確な原因が確認された場合は、その原因を記録し、修正後の正しい結果を報告します。
この場合でも、単に修正するだけでは不十分です。原因、影響範囲、是正措置、予防措置を文書化する必要があります。
5.3 明確な原因がない場合
明確なラボエラーが見つからない場合は、仮説に基づく追加調査を行います。
必要に応じて仮説/シミュレーション試験プロトコルを作成し、SME、分析者、レビュアーと協議して原因を確認することも必要になります。また、仮説試験の結果は、元のOOT結果を都合よく無効化するためではなく、原因仮説を確認または排除するために用いるべきとされています。
これはGMP上、非常に重要なポイントです。
追加試験は「良い結果を探す行為」ではなく、「科学的原因を明らかにする行為」でなければなりません。
コメントを残す