抗原賦活化とは
抗原賦活化は、IHCで非常に重要な工程です。
ホルマリン固定では、組織形態をよく保てる一方で、タンパク質同士に架橋が生じ、抗体が認識するエピトープが隠れることがあります。そのため、抗体が目的抗原に結合しやすくなるように、熱や酵素を使ってエピトープを露出させます。
抗原賦活化には、主に次の2種類があります。
| 方法 | 概要 |
|---|---|
| HIER | Heat-Induced Epitope Retrieval。加熱によりエピトープを露出させる |
| PIER | Proteolytic-Induced Epitope Retrieval。酵素処理によりエピトープを露出させる |
Abcamは、ホルマリン固定により抗原がマスクされるため、抗原賦活化によって固定組織中の抗原を検出しやすくすると説明しています。また、抗原賦活化の方法は組織、抗原、抗体に依存し、条件検討が必要です。
ブロッキングとは
ブロッキングは、抗体や検出試薬が目的抗原以外の場所に非特異的に結合することを減らす工程です。
IHCでは、次のような背景染色が問題になります。
| 背景の原因 | 例 |
|---|---|
| 非特異的抗体結合 | 組織成分やFc受容体への結合 |
| 内因性ペルオキシダーゼ | 赤血球、血液成分、炎症細胞など |
| 内因性ビオチン | 肝臓、腎臓などの一部組織 |
| 不十分な洗浄 | 未結合抗体や検出試薬の残留 |
| 抗体濃度過多 | 全体的な背景上昇 |
HRP-DAB系を使う場合は、内因性ペルオキシダーゼ活性を過酸化水素などでブロックする工程が入ることがあります。
対比染色とは
DAB発色だけでは、組織の全体構造が分かりにくい場合があります。そのため、IHCではヘマトキシリンなどで核を染める対比染色を行うことが一般的です。
| 染色 | 見え方 | 目的 |
|---|---|---|
| DAB | 茶褐色 | 目的抗原の陽性部位 |
| ヘマトキシリン | 青紫色 | 核、組織構造 |
| Fast Redなど | 赤色系 | 別系統の発色検出など |
対比染色により、陽性シグナルが腫瘍細胞にあるのか、間質細胞にあるのか、血管や炎症細胞にあるのかを判断しやすくなります。
IHCで重要なコントロール
IHCでは、染色結果の信頼性を確認するためにコントロールが重要です。
| コントロール | 目的 |
|---|---|
| 陽性対照 | 染色系が機能していることを確認する |
| 陰性対照 | 非特異染色や背景を確認する |
| 一次抗体なし | 検出試薬由来の背景を確認する |
| アイソタイプコントロール | 抗体クラス由来の非特異結合を確認する |
| 既知発現組織 | 抗体が目的抗原を検出できるか確認する |
| 吸収試験 | 抗原ペプチドで特異性を確認する場合がある |
| ノックアウト組織・細胞 | 抗体特異性確認に有用 |
特にIHCでは、組織ごとに背景染色の出方が異なるため、陽性対照と陰性対照の設定が重要です。
IHCの評価で見るポイント
IHCの結果を見るときは、単に「茶色く染まったか」だけでは不十分です。次のような点を総合的に確認します。
| 評価項目 | 内容 |
|---|---|
| 染色部位 | 核、細胞質、細胞膜のどこに染まっているか |
| 陽性細胞の種類 | 腫瘍細胞、免疫細胞、間質細胞など |
| 陽性細胞率 | どの程度の細胞が陽性か |
| 染色強度 | 弱陽性、中等度、強陽性など |
| 背景染色 | 非特異的な染まりがないか |
| 組織形態 | 壊死、剥離、固定不良がないか |
| 対照標本 | 陽性・陰性対照が妥当か |
臨床病理では、マーカーごとに判定基準やスコアリング方法が定められていることがあります。たとえば、細胞膜染色を評価するマーカー、核染色を評価するマーカー、陽性細胞率を重視するマーカーなどがあり、評価方法は一律ではありません。
IHCの長所
IHCの長所は、組織構造を保ったまま目的分子の位置を確認できることです。
| 長所 | 内容 |
|---|---|
| 組織内局在が分かる | どの細胞・どの部位に発現しているか見える |
| 病理形態と比較できる | HE染色像と対応させやすい |
| 光学顕微鏡で観察できる | 発色IHCは一般的な顕微鏡で確認可能 |
| 診断補助に有用 | 腫瘍分類や治療標的評価に使われる |
| 保存性が比較的高い | 発色標本は蛍光より保存しやすい場合がある |
IHCの限界
一方で、IHCには限界もあります。
| 限界 | 内容 |
|---|---|
| 抗体品質に依存する | 特異性・感度が結果を左右する |
| 固定条件の影響を受ける | 過固定・固定不足で結果が変わる |
| 抗原賦活化条件に依存する | 条件が合わないと染まらない、背景が出る |
| 定量性に限界がある | 染色強度は絶対量とは一致しない場合がある |
| 判定者差が出る | スコアリングに主観が入ることがある |
| 偽陽性・偽陰性がある | 背景染色、抗原消失、非特異反応など |
| 標準化が必要 | 施設間差、試薬差、装置差が出やすい |
そのため、IHCの結果を解釈する場合は、染色条件、標本の状態、対照、抗体クローン、検出系、評価基準を確認する必要があります。
IHC、IF、WB、ELISAの使い分け
抗体を使う代表的な手法として、IHC、IF、WB、ELISAがあります。それぞれ得意な情報が異なります。
| 方法 | 主な対象 | 得意な情報 |
|---|---|---|
| IHC | 組織切片 | 組織内局在、病理形態との関係 |
| IF | 細胞・組織 | 蛍光による局在、多重染色、共局在 |
| WB | タンパク質抽出液 | 分子量、発現量の目安 |
| ELISA | 液体試料 | 濃度、定量 |
IHCは、タンパク質の「量」だけでなく、どの細胞で、どこに発現しているかを知りたい場合に特に有用です。
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