3. 本培養
本培養では、バイオリアクター内で細胞に目的タンパク質を産生させます。
主な管理項目には、以下があります。
| 管理項目 | 例 |
|---|---|
| 温度 | 37℃付近、温度シフトなど |
| pH | CO₂、塩基添加などによる制御 |
| DO | 溶存酸素濃度 |
| 攪拌 | 細胞へのせん断影響、混合性 |
| 通気 | 酸素供給、CO₂除去 |
| フィード | グルコース、アミノ酸、その他栄養成分 |
| 培養期間 | 生産性と品質のバランス |
| 細胞状態 | 生細胞密度、生存率、代謝物 |
これらは単なる運転条件ではなく、製品品質に影響し得る工程パラメータです。
4. ハーベスト
培養終了後、目的物を含む培養液を回収します。
抗体医薬品など分泌型タンパク質では、目的物は主に培養上清中に存在します。一方、細胞内発現型の製品では、細胞回収や破砕操作が必要になる場合があります。
ハーベスト液はDSPへの入力となるため、USPとDSPの境界に位置する重要な工程です。
USP開発で検討される主な項目
USP開発では、単に「よく増える培養条件」を探すだけでは不十分です。
CMCの観点では、生産性、品質、再現性、スケールアップ性、管理可能性を同時に考える必要があります。
| 検討項目 | 内容 |
|---|---|
| 培地検討 | 基礎培地、フィード培地、成分濃度 |
| フィード戦略 | バッチ、フェドバッチ、連続添加 |
| 培養モード | バッチ、フェドバッチ、灌流培養 |
| 温度シフト | 生産性や品質への影響 |
| pH・DO条件 | 細胞増殖、代謝、品質への影響 |
| 接種密度 | 初期細胞密度の最適化 |
| 培養期間 | 収量と品質劣化のバランス |
| スケールアップ | 小スケールから商用スケールへの移行 |
| CPP候補 | 重要工程パラメータの特定 |
| CQAとの関係 | 重要品質特性への影響評価 |
特にCMC資料では、USPの条件がどのように設定され、その条件が製品品質にどのように関係しているかを説明できることが重要です。
USPとCQA・CPPの関係
CMCでは、CQAとCPPという用語も頻繁に出てきます。
| 用語 | 英語 | 意味 |
|---|---|---|
| CQA | Critical Quality Attribute | 重要品質特性 |
| CPP | Critical Process Parameter | 重要工程パラメータ |
USPでは、培養条件がCQAに影響する可能性があります。
たとえば、以下のような関係が考えられます。
| USP側の要素 | 影響し得る品質特性 |
|---|---|
| 培養温度 | 糖鎖、凝集体、発現量 |
| pH | 電荷バリアント、細胞代謝 |
| DO | 細胞増殖、代謝物、不純物 |
| 培養期間 | 分解物、凝集体、HCP |
| フィード条件 | 糖鎖、収量、代謝物 |
| 細胞生存率 | HCP、HCDNA、細胞由来不純物 |
もちろん、どのパラメータが本当にCPPになるかは、製品、細胞株、工程、品質特性、リスク評価、実験データによって決まります。
そのため、USP開発ではDoE、スケールダウンモデル、工程特性解析、PPQ前のリスク評価などが重要になります。
USPとプロセスバリデーション
商用製造を見据えたCMCでは、USPが再現性よく機能することを示す必要があります。
EMAのバイオテクノロジー由来有効成分に関するプロセスバリデーションガイドラインでは、上流工程について、細胞培養ステップが意図した通りに機能することを評価・検証するという考え方が示されています。
USPのプロセスバリデーションでは、たとえば以下が論点になります。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| スケールダウンモデル | 商用スケールを適切に代表できるか |
| 工程パラメータ | 設定範囲、許容範囲、管理戦略 |
| ハーベスト基準 | 培養終了時点の判断基準 |
| 工程内試験 | 細胞密度、生存率、代謝物、目的物濃度 |
| 汚染管理 | バイオバーデン、マイコプラズマ、ウイルス安全性 |
| 一貫性 | ロット間で同等の品質・収量が得られるか |
USPは生物学的な変動を含むため、「設定値どおりに運転した」だけではなく、工程の変動が品質へ与える影響を理解しておくことが重要です。
USPと技術移管
バイオ医薬品では、開発施設から製造施設、あるいはCDMOへ工程を移管する場面が多くあります。
このとき、USPの技術移管では、単に培養条件表を渡すだけでは不十分です。
移管で重要になるのは、以下のような情報です。
| 項目 | 技術移管で必要な情報 |
|---|---|
| 細胞 | セルバンク情報、解凍条件、継代履歴 |
| 培地 | 組成、調製方法、保管条件、使用期限 |
| 培養装置 | バイオリアクター仕様、スケール、センサー |
| 操作条件 | 温度、pH、DO、攪拌、通気、フィード |
| サンプリング | タイミング、試験項目、判定基準 |
| ハーベスト | 終了基準、回収条件、保持条件 |
| 逸脱対応 | 細胞増殖不良、pH逸脱、DO低下、汚染疑い |
特にバイオリアクターは、メーカーやスケールが変わると、同じ攪拌rpmでも混合状態やせん断環境が変わる可能性があります。そのため、単純な数値移管ではなく、工程の意味を理解した移管が必要です。
USPという略語の注意点
CMC文書でUSPと書かれていても、必ずUpstream Processを意味するとは限りません。
医薬品分野では、USPは**United States Pharmacopeia(米国薬局方)**を指すことも非常に多いです。
| 略語 | 意味 | 主な文脈 |
|---|---|---|
| USP | Upstream Process | バイオ医薬品製造、CMC、工程開発 |
| USP | United States Pharmacopeia | 薬局方、規格試験、一般試験法 |
たとえば、「USP method」「USP chapter」「USP <85>」のような表現であれば、通常は米国薬局方を意味します。
一方、「USP development」「USP/DSP」「upstream process」「cell culture process」といった文脈では、Upstream Processを意味する可能性が高いです。