Host cellの維持・更新管理
セルバンクは、一度作れば終わりではありません。
MCBやWCBは凍結保存されますが、保存設備、温度管理、在庫管理、ラベル管理、搬送管理、逸脱管理などが必要です。
特に重要なのは以下です。
| 管理対象 | 重要ポイント |
|---|---|
| 保存温度 | 液体窒素気相保存など、規定条件を維持する |
| 在庫管理 | どのバイアルをいつ作製し、どこに保管しているか |
| 使用履歴 | どの製造ロットにどのWCBバイアルを使用したか |
| 継代数 | 規定された継代数・細胞世代数を超えないこと |
| 再作製 | WCB更新時にMCBとの関係性を明確にする |
| 輸送 | ドライシッパーなどで温度逸脱を防止する |
| 変更管理 | セルバンク作製法、保管場所、試験法変更を管理する |
WCBを使い切る場合には、MCBから新たなWCBを作製します。このとき、単に同じMCB由来だから問題ないと考えるのではなく、新WCBの作製条件、試験結果、旧WCBとの同等性、製造工程への影響を評価する必要があります。
推測ですが、実務上の失敗例として多いのは、セルバンクそのものよりも、「セルバンクの使用履歴」「継代上限」「バイアル単位のトレーサビリティ」「再作製時の変更管理」が文書上あいまいになるケースです。
Host cell由来不純物:HCPとHCD
Host cellは目的タンパク質を作るために必要ですが、同時に不純物の発生源にもなります。
代表的なhost cell由来不純物が、HCPとHCDです。
| 略語 | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
| HCP | Host Cell Protein | 宿主細胞由来タンパク質 |
| HCD / HCDNA | Host Cell DNA | 宿主細胞由来DNA、残留DNA |
HCPとは
HCPは、host cellが本来持っているタンパク質です。
細胞は目的タンパク質だけを作るわけではありません。細胞の増殖、代謝、ストレス応答、分泌、細胞死に伴って、多数の宿主細胞由来タンパク質が培養液中に存在します。
精製工程では、Protein Aクロマトグラフィー、イオン交換、疎水性相互作用、UF/DFなどによってHCPを低減します。しかし、すべてのHCPを完全に除去することは現実的ではないため、残留量を管理します。
HCPは、免疫原性、製品分解、安定性低下などに関係する可能性があります。特に、少量でも生理活性や酵素活性を持つHCPが残る場合には注意が必要です。
HCDとは
HCDは、host cell由来のDNAです。
細胞培養では、細胞が増殖し、一定割合で細胞死も起こります。その過程で細胞内DNAが培養液中に放出されます。精製工程では、DNA除去工程や核酸分解酵素処理、クロマトグラフィーなどによってHCDを低減します。
HCDでは、残留量だけでなく、DNA断片のサイズや由来、製品特性との関係も考慮される場合があります。
HCP/HCDは工程内管理と規格試験の両方で見る
HCPやHCDは、最終製品だけで測ればよいというものではありません。
バイオ医薬品では、製造工程そのものが品質を作り込む場です。そのため、HCP/HCDは工程開発、工程バリデーション、工程内試験、原薬規格試験などの複数の段階で管理されます。
| 管理段階 | HCP/HCDの見方 |
|---|---|
| セルライン開発 | どのhost cell・クローンがどのような不純物傾向を持つか |
| 培養工程 | 細胞生存率、培養日数、細胞死によるHCP/HCD増加 |
| 精製工程 | 各精製ステップでのHCP/HCD除去能力 |
| 工程バリデーション | 一貫して除去できるか |
| 原薬試験 | 残留HCP/HCDが許容範囲内か |
| 安定性試験 | 残留不純物が品質に影響しないか |
ICH Q6Bでは、バイオテクノロジー応用医薬品・生物学的製剤の規格設定に関する考え方が示されており、場合によっては原薬・製剤だけでなく、製造工程中の試験や工程内判定基準として管理することもあり得るとされています。
Host cellとCMCの関係
CMCでは、host cellに関する情報は非常に重要です。
CMCとは、Chemistry, Manufacturing and Controlsの略で、医薬品の品質に関する開発・製造・管理情報を指します。バイオ医薬品では、host cell、セルバンク、培養工程、精製工程、分析法、規格、安定性などが相互に関係します。
Host cellに関するCMC情報としては、以下が重要です。
| CMC項目 | 内容 |
|---|---|
| 細胞基材の由来 | 生物種、細胞株、入手元、履歴 |
| 遺伝子導入情報 | 導入遺伝子、ベクター、選択方法 |
| クローン選択根拠 | 産生量、品質、安定性 |
| MCB/WCB管理 | 作製、保存、試験、使用履歴 |
| 特性解析 | 同一性、遺伝的安定性、安全性 |
| 製造工程 | 培養条件、精製工程、不純物除去 |
| 規格試験 | HCP、HCD、純度、力価、安全性関連試験 |
| 変更管理 | セルバンク更新、工程変更、分析法変更 |
つまり、host cellはCMC資料の中で、製造工程の最上流に位置する重要要素です。
上流のhost cell管理が不十分であれば、その後の培養、精製、規格試験で問題が生じる可能性があります。逆に、host cellとセルバンクの管理がしっかりしていれば、製造再現性と品質一貫性を説明しやすくなります。