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  • [Bio-Edu] タンパク質の「イオン交換体」による精製原理 – 目的タンパク質の物性を知る必要性 [2021/02/25]

    [Bio-Edu] タンパク質の「イオン交換体」による精製原理 – 目的タンパク質の物性を知る必要性 [2021/02/25]

    はじめに

    タンパク質の精製とは、どのような作業をするのでしょうか? 精製とは目的物と異なる物質を取り除き、目的物質の割合を上げること、すなわち純度を高めることです。

    ここでは、イオン交換体を用いたタンパク質の精製の原理について解説します。

    イオン交換体

    先ず、イオン交換について説明します。その前に,タンパク質はアミノ酸の数珠繋ぎで作られています(ポリペプチド)。具体的には,アミノ酸のアミノ基と隣のアミノ酸のカルボキシル基とがペプチド結合してポリペプチドを作っています.

    このポリペプチドの末端や側鎖(アミノ酸ごとの)には,フリーのアミノ基やカルボキシル基は、溶液のpHに応じてイオン化しています。そのイオン化によって、アミノ基(NH2)は、Hが一つ増えてNH3+になり正に荷電します。カルボキシル基(COOH)は、逆にHが減ってCOOになり負に荷電します。Hを増やすためには、塩酸などの酸を添加します.

    1. -NH3+ ⇌ -NH2 + H+
      • (アミノ基は弱塩基であり水に溶けると右の式に傾く)
      • (右の式に塩酸を添加してH+濃度を上げるとアミノ基に戻る)
    2. -COOH2+ ⇌ -COOH + H+
      • (カルボキシル基は弱酸であり水に溶けると上記左の式に傾くカルボキシラートイオンになる)
      • (左の式に塩酸を添加してH+濃度を上げるとカルボキシル:-COOH2+基に戻る)

    Hを減らすには、NaOHなどの塩基を添加します。アミノ基とカルボキシル基がいずれもイオン化していない状態、すなわちNH2とCOOHになっているpHを等電点(pI)といい、荷電していない状態です。

    1. NH2 →(NaOH adding)→ NH- (アミノ基が正荷電する)
    2. COOH →(HCl adding)→ COOH (カルボキシル基が負荷電する)

    イオン交換体は、負に荷電する合成化合物、または、正に荷電する合成化合物を樹脂(レジン)に結合させているものを言います。陰イオン交換では、陰イオンとイオン結合が可能な正に荷電した合成化合物を結合させたレジンを使用します。

    タンパク質の溶解液のpHを調節して、その目的のタンパク質が負に荷電するか正に荷電するかを設定し、それに応じたイオン交換体を用いて、そのレジンにタンパク質を結合させることで、目的のタンパク質を効率よく回収することができます。具体的には、イオン交換体に結合させたタンパク質は、今度はそのレジンから解離させるために、そのイオン結合を切る条件にレジンの環境を変えてやります。すると、目的のタンパク質がレジンから溶出さされます。

    イオン交換クロマトグラフィ

    レジンの置かれる環境を変化させるために、緩衝液(パッファ)をレジンに添加したり、バッファのみを取り除いたりすることで、レジンの置かれている環境の変化を作ってやります。

    具体的には、バッチ法とカラム法があります。以下にそれぞれ説明していきます。

    バッチ法

    レジンに緩衝液を添加してスパテルでかき混ぜて、レジンの環境の均一化を行います。次に、

    編集履歴
    2020/06/22 はりきり(Mr)

    条件の基本は、電気伝導度とpH

    conductivityとpHの組み合わせ条件を網羅的に実験します。最初は、吸着条件です。その後、洗浄条件も必要ですが、簡便さを追求する場合は、吸着条件の実験データから目的タンパク質の部分的精製条件とすることも可能です。

    • レジンの選定
      • 陽イオン交換
      • 陰イオン交換
      • 疎水担体
      • マルチモーダル
    • 電気伝導度(conductivity)
    • pH
    • その組み合わせ
    • レジンの選定

    検討の概要

    • 陽イオン・陰イオン交換レジン及び疎水担体では、pHとNaCl濃度の組み合わせ
    • ハイドロキシアパタイト(HA)では、NaCl濃度とリン酸(K2HPO4)の組み合わせ
    • Adhere、MMCでは、陽イオン・陰イオン交換レジンと同様、pHとNaCl濃度の組み合わせを使いますが、遠濃度は、高めの範囲を設定します。

    実験方法

    レジンの準備
    • レジンの洗浄(酸・アルカリ、中和、最後に水に平衡化)
    • 遠心してWet volumeを測定
    • その一部を採取して、数日乾燥させて、前後の重さを測定
    • レジンのwet volume(g)を使用した時、含まれる水の量を見積もる(計算しておく)
    出発材料の準備
    • 培養上清
    • 組成が不明でも良い
    • 培養液を水で希釈系列を作る
      • 1倍(希釈無し), 0.1mLを調製
      • 1.5倍, 0.1mLを調製
      • 2.0倍, 0.1mLを調製
      • 5.0倍, 0.1mLを調製
      • 10倍, 01mLを調製
    吸着反応とアッセイ
    • 培養液の希釈系列にレジンを添加
      • 96 well microplateで(プレートミキサー)も良い
      • 蓋つき試験管でも良い(サクラローターで攪拌)
      • 室温, 1hr
    • 分析
      • SDS-PAGE
      • 特異的アッセイ
    • 希釈率を決定

    編集履歴

    2021/02/25, Mr.HARIKIRI

  • [Bio-Edu] 沈殿化法によるタンパク質の回収・分離 – 検討方法 –  ID4376 [2020/12/11]

    [Bio-Edu] 沈殿化法によるタンパク質の回収・分離 – 検討方法 – ID4376 [2020/12/11]

    はじめに

    Ribonuclease Aのアセントン沈殿の条件検討につい、学生さんが精力的に実施されている文献の紹介をして、その後、昔から知られている一般的な沈殿法について紹介してします。

    Ribonuclease Aの沈殿精製

    界面活性剤による沈殿生成とアセトンによる 沈殿溶解を利用したタンパク質の回収・分離 - 新居浜工業高等専門学校 第51号 (2014)

    逆ミセル抽出法

    • 逆ミセル
      • 無極性溶媒中、極少量の水をコアとして、界面活性剤が会合したナノスケールの分子の集合体
      • 微小水槽が、界面活性剤分子によって、有機溶媒から隔離されている状態
      • この状態では、タンパク質は変性することなく逆ミセルの内部にとじこめられる
    • 操作法
      • タンパク質水溶液を用意
      • 逆ミセルを形成した有機溶液を用意
      • 2つを接触させる
    • タンパク質の逆ミセルへの移行の原理
      • タンパク質と界面活性剤の親水基との静電的相互作用

    逆ミセルからタンパク質の抽出

    • タンパク質を含む逆ミセルに
    • 水溶液を接触させ、界面活性剤との相互作用を弱くする
    • タンパク質は、水層に移動するが、その効率は低い

    逆ミセル抽出法の改良 (Shinらの方法)

    検討タンパク質 : 鶏卵白リゾチーム (14.3kDa, pI:11), 牛膵臓リボヌクレアーゼ(13.7kDa, pI9.6)

    • 界面活性剤による沈殿形成
      • 原理 : タンパク質は水中でイオン性界面活性剤により沈殿形成する
      • 2-エチル(ヘルシル)スルホコハク酸Na(AOT)
      • 等量(5mL)を5sec混和、静置→遠心→ppt→蒸留水で洗浄→Acetone 1vol(5mL)で溶解→0.1M NaCl 10μL→沈殿化→静置→遠心→ppt→Acetone洗浄→乾燥→蒸留水溶解
    • 極性有機溶媒による回収
      • 形成した沈殿を溶解
      • acetone (solubilization◯、precipitation◯)
      • 1-propanol, 2propanol (solubilization◯、precipitation×)
      • ethanol/ethylene glycol (solubilization△/×、precipitation-/-)
    • 電解質水溶液を極少量添加
      • NaCl 水溶液(電解遮断効果、濃度が高いほど沈殿↓)
      • 極性有機溶媒は、タンパク質から外れ、界面活性剤は、極性有機溶媒と混和
      • タンパク質は沈殿のまま回収できる
    • 低い界面活性剤の濃度で処理可能

    硫安、アセトン、TCAなど、タンパク質の沈殿法プロトコールまとめ – ThermoFisher -より

    https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/protocols-of-protein-precipitation/

    トラディショナルな沈殿法

    • 硫酸アンモニウム(硫安)沈殿法
      • マイルドなタンパク質沈殿化法
      • 飽和硫安濃度33%でIgGが沈殿、アルブミンは50%程度で沈殿する
    • アセトン沈殿法
      • 昔の血漿分解製剤で使用
    • トリクロロ酢酸(TCA)沈殿法
      • 酸性等電点を持つタンパク質に適用できる
      • グリシン塩酸法
    • TCA/アセトン沈殿法
    • クロロホルム/メタノール
      • SDSなどを除けるMS(質量分析)用のタンパク質の回収
    • 酸性pH処理
      • pH3~pH5にすることで、沈殿するものもあります。DNAなどの核酸が沈殿します。DNAでなくタンパク質も沈殿するものもあります
      • DNAとタンパク質が共沈したとしても、その他の不純物と分離ができていれば、よしとします。後の処理でDNAとの分離を考えましょう
      • 添加する酸は、タンパク質にマイルドな酢酸を使用します。塩酸は決して使ってはいけません。タンパク変性しやすいためです
    • 食塩(NaCl)添加
      • 3~5MのNaCl溶液を少ない量から適当添加していく方法で、スモールスケールの検討を行います。
      • 酢酸を添加して酸性pHにしても沈殿が生じない場合に、追加的にNaClの添加をすると沈殿することもあります
    • EtOH分画
      • 血漿分画製剤で使用される実製造に使われている
      • この技法は高度である。再現性を得るには、温度管理、pH管理、及び伝導度管理を厳密に制御する必要がある

    参考

    タンパク質精製は、SDS-PAGE分析で検出できる狭雑タンパク質の分離だけでは不十分です。endotoxnや核酸も不純物です。タンパク質から核酸を除去する目的ではないですが、沈澱法としてCTAB沈澱法についても以下に紹介します。この方法も昔から行われていた沈澱法です。

    • CTABによるplasmid DNAとRNA/endotoxinの分離 2)

    検討方法

    マイクロサイズ法

    沈澱化の検討は、200μL程度のガラス製のバイアルを使えば効率的です。Biacore用のサンプルチューブがいい感じに使えます。透明度と数百μLで検討ができて、サンプル量も効率的です。

    操作法

    • 100μLのサンプルをGlass vialに分注
    • 酢酸原液を数μLずつ添加
    • 別途、添加量とpHを確認しておく
    • 酢酸は、タンパク質の溶解性を高めるので、入れすぎは逆効果です
    • ですが、酢酸で低pHのタンパク質溶液にNaClを添加して塩濃度を高めると疎水性がより高まるためタンパク質が沈澱化しやすくなります
    • 分子量が大きいて沈澱化効率は高まります
    • 以上のことを踏まえて、沈殿化条件を決定していきます。

    分析

    • UVスペクトル(A200~700, NanoDropが便利)
      • A260/A280比率は、タンパク質と核酸のコンタミ具合の指標
    • SDS-PAGEによるタンパク質の純度分析
      • 目的物の分子量を指標に評価
    • Endotoxin分析 (option)
      • LAL法 (Kit)
    • DNA分析 (option)
      • PicoGreen (Kit)

    1) Glass vials

    Borosilicate glass vials in a range of sizes and volumes. For use with Biacore systems.

    沈殿化検討に使用する透明なガラスバイアル。ゴム栓も購入できるので、それを使えばしばらく保存が可能。検討である程度たまったら写真を撮ってから廃棄です。

    https://www.cytivalifesciences.com/en/us/shop/protein-analysis/spr-label-free-analysis/accessories-vial/glass-vials-p-05546

    2) Milligram scale parallel purification of plasmid DNA using anion-exchange membrane capsules and
    a multi-channel peristaltic pump (2007)

    低濃度CTAB (0.1-4g/L) 沈殿法によるpDNAとRNA/Endotoxinの分離 : 2g/L or 10g/L CTAB/50mM NaCl溶液を添加し、Incubation20分, cfg(38,000xg 20min, 20℃)/pptを70% EtOHで洗浄し、0.6M NaCl, 25mM Tris-HCl, 1mM EDTA, pH7.4で氷冷下で溶解。

    https://www.researchgate.net/profile/Stefan_Schmidt15/publication/6232344_Milligram_scale_parallel_purification_of_plasmid_DNA_using_anion-exchange_membrane_capsules_and_a_multi-channel_peristaltic_pump/links/59de01f545851557bde325bd/Milligram-scale-parallel-purification-of-plasmid-DNA-using-anion-exchange-membrane-capsules-and-a-multi-channel-peristaltic-pump.pdf?origin=publication_detail

    まとめ

    今回、タンパク質の沈殿化方法の色々を紹介しました。これらの方法で、タンパク質を純度よく精製するには、条件をもっと厳密にコントロールしなければなりませんが、今回紹介した中では、そこまで条件を詰めて設定されたものはありません。

    沈殿化法で、更にタンパク質の精製を極めたいと思っているなら、エタノールを使用した沈殿化による血漿タンパク質の精製方法として、Cohn Ethanol Fractionationが知られているので、それを当たるのも手です。Cohn法では、厳密な条件のコントロールが必要です。例えば、温度(4℃)、pH(酸性から中性に徐々に上げていく)、塩濃度、EtOH濃度(徐々に上げいく)により、血漿から段階的にタンパク質画分を沈殿させていきます。大雑把に言うと、最初に沈殿化する画分には、高分子(Fibrinogenなど)、続いて免疫グロブリン(IgGなど)、最後に、血漿タンパク質として最も多いアルブミムです。少しの条件設定のミスで、純度・回収率が悪化したり、タンパク変性したりします。機会があれば、Cohn Ethanol Fractionについてもご紹介したいと思います。

    今回、紹介したタンパク質の沈殿化法でも、回収率が悪いとか、純度が悪いとかいった場合は、pH, 塩濃度、温度などを見直してみてください。

    編集履歴
    2020/04/09 はりきり(Mr)
    2020/05/23 追記 (はじめに、まとめ)
    2020/09/23 追記 (酢酸の添加、NaClの添加、検討方法)
    2020/11/05 追記 (CTAB沈殿法によるpDNAとRNA/endotoxinの分離)
    2020/12/11 追記 (操作法 by Mr.HARIKIRI)

    以上

  • [Bio-Edu] タンパク質の沈殿化法の原理 [2022/12/20]

    [Bio-Edu] タンパク質の沈殿化法の原理 [2022/12/20]

    はじめに

    無機塩の高濃度添加は、タンパク質を沈殿させる基本です。タンパク質溶液に対して塩を添加することで、タンパク質の疎水性という物理的性質の強度を溶液中で強めることができます。疎水性が高まると、そのタンパク質の成分である疎水性のアミノ酸や疎水性の領域が、水を避けて互いにより集まり結合します。その性質の違いは、そのタンパク質固有のアミノ酸の含有比率に応じて、タンパク質毎に沈殿化する塩の種類、濃度、溶液pH、及び当該タンパク質のタンパク質濃度などの組み合わせに応じて重合化し、やがて沈殿化します。

    • タンパク質濃度
      • 沈殿とは分子同士が互いに寄り添い凝集することです。その基本原理からすると、沈殿させたいタンパク質の濃度が高いほど、沈澱しやすくなることは容易に理解できます。
    • タンパク質の分子量
      • 分子量が大きいほど、疎水性のアミノ酸の総数は一般論として多くなることは理解できます。すなわち、疎水性アミノ酸が増えるので沈殿になりやすいのです。
    • タンパク質のアミノ酸組成の比率
      • これは、上述のタンパク質の分子量から推定するよりは、直接的に評価できる指標です。ただし、分子の立体構造上で表面に出ている疎水性のアミノ酸として多いほどという条件も付きます。
    • タンパク質のフォールディング(立体構造)の状況
      • タンパク質のフォールディングの状態とはなんでしょうか。タンパク質は、基本的に1本のペプチドの鎖が、巻き、折畳まることで、その天然の立体構造としての状態になります。この状態が、最も血液に溶けやすくなっているのです。すなわち、疎水性のアミノ酸は内側に、親水性のアミノ酸は外側に配置されることになります。ミスフォールディングすると、その状態が不整合しているため疎水性アミノ酸が外側に多く出ている状態が起こり得て、そのため分子間での疎水性同士の結合インタラクショにより沈殿形成しやすくなります。
    • 溶液のpH
      • これは、私の経験則ですが、理由をよく考えると理解ができるものと思っています。ただ、今までよく考えて小なったので、経験則だけで説明します。バッファ組成を酸性にすると疎水性が高まり、逆にアルカリ性にすると疎水性が低下します。
      • この原理を利用して、クロマトグラフィのカラムのレジンの洗浄・再生処理には、強アルカリ性のバッファが使われます。
    • 溶液の温度
      • 反応論や溶解度の話になります。温度が高いと分子のブラウン運動が大きくなり、溶解度は一般的に高くなります。逆に、温度が低くなるとブラウン運動は低下し、溶解度は低くなります。すなわち、温度が低いほど沈澱になりやすいと推察されます。しかし、反応論的には、反応しずらくなるため、疏水性を利用する疏水クロマトにおいては、タンパク質のレジンに対する反応としての吸着性は低下するため、低い温度での疎水クロマトはワークしなくなります。
    • 溶液の初期の塩濃度
      • 塩析させる場合、塩濃度を高めるので、単純に初期の濃度を問題にしているだけです。
    • 無機塩の種類と濃度
      • 塩析させやすい塩が知られています。硫酸アンモニウムがそれです。でも、疏水クロマトにはあまり相性が良くありません。そこで、もっとマイルドなNaClや、クエン酸(Na)などが使われます。

    塩を添加する方法による沈殿化の手法は、タンパクの精製に適するレジン(樹脂)がなかった昔に多用された技術です。この技術にはデメリットもあります。沈殿化したタンパク質は、沈澱を作る過程から状態を維持する過程で、タンパク質変性のリスクが高まります。理由は、沈殿化により、必要以上に強固に寄り集まったタンパク質が、水溶液に戻すときに再溶解しない場合がある事です。再溶解時に溶解しやすいようにする添加剤としての補助的に働くものがあります。グリシンなどのアミノ酸などは、その一種と考えられます。

    タンパク質の沈殿化法による精製手法の代替法が存在します。以下の課題について解決し得る方法です。それは、疏水クロマトグラフィー(HIC)です。ここでは、HICについては論じていません(はりきり)。

    沈殿化法の課題

    • 沈殿化したタンパク質には,条件によっては再溶解の困難性というリスクがあること.
    • いれまでは,工業的に遠心機は使用しにくかったが,最近では連続遠心と自動的に沈殿画分を回収できる機種も開発されている

    ホフマイスター系列

    1888年からのHofmeisterらの色々な塩を使った塩析実験から得られた塩析の強さは、ホフマイスター系列と呼ばれます。塩析効果の高い塩は利尿作用があり、逆溶解させる塩は下痢作用があると記述があります。

    タンパク質の凝集剤としての塩・有機溶媒・高分子 (2015), 生物工学, 第93巻

    https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9305/9305_tokushu_1.pdf

    デバイ – ヒュッケル理論

    静電相互素作用が主たる原理であるとするとデバイーヒュッケル理論で説明できる。しかし、実際には、タンパク質の塩析曲線はベルシェイプを示し、塩の種類によって異なる曲線を示すとの報告(1932年のGreenら)がある。すなわち、静電相互作用だけでは説明がつかず、別の相互作用や水の構造変化が影響していとる予想されていた。

    イオンは水の水素結合ネットワーク

    しかし、イオンは水の水素結合結合ネットワークに影響を与えないという論文が報告(2003)され、溶液中の水の構造を変えるのではなく、タンパク質の表面にある水和水に影響して、タンパク質の性質に影響しているのであろうと考えられた。

    その理屈は、コスモトロープが水和水の秩序化→表面張力の増加→溶液は表面を減らす→タンパク質が凝集する。この理論は、リゾチームの凝集速度と溶液の表面張力の間に、正の相関があるとの結果と矛盾しない。

    塩の種類により水和水の量に変化を生じさせていることについては、選択的相互作用の量として定義すると、

    選択的相互作用の量 =塩(溶質)がタンパク質に結合している量 − 水和水により脱離してしまつた溶質の量、と定義する。値が正であれば、結合している溶質の量の方が多い、負であれば、結合している水和水の量の方が多い。

    硫化物イオンの選択的相互相互作用の量は、塩化物イオンより小さい値を示すし、硫化物イオンは、塩化物イオンと並べて、タンパク質表面から選択的に排除されていることになる。

    ホフマイスター系列

    塩析する能力を示す。

    塩析しやすい (コスモトロープ) > CO3 > SO4 > H2PO4 > F > Cl > I > SCN > NH4 > K > Na > Li > Ca > Mg > 溶解 (カオトロープ)

    ホフマイスター系列は、周期表との規則性が見られる。

    ハロゲン属では、 周期表順に同じく、

    塩析しやすい > F > Cl > Br > I > 溶解

    である。

    アルカリ金属のカチオンでは、前述の逆となっている。したがって、沈殿材傾向は、イオンの半径や電子密度、質量で説明できることを示唆している。ただし、硫酸イオンやグアニジウムイオンなど複雑なイオンとは別の説明が必要と考えられる。

    タンパク質の溶解度

    一般的に、タンパク質の溶解度は、イオン濃度を増加させると増加し、それは極大値があり、ベルシェイプを示す。

    デバイーヒュッケルの理論

    デバイーヒュッケル理論で説明すると、塩を添加していくと、溶解から凝集まで一直線に状態変化する。低濃度では、静電遮蔽によってタンパク質の分子間の反発力が静電遮蔽により弱まる→分子の容積が減る→溶解度が増す、と説明できる。更に塩を加えていくと、タンパク質間のファンデンワールス力や疎水性相互作用などの引力が強まる→凝集する、と説明できる。しかし、実際には、溶解→凝集→溶解なるため矛盾がある。

    コスモトロープ

    コスモトロープ; kosmotropeは,水の水素結合ネットワークを秩序化(コスモス)する。Structure Makerとも呼ぶ.

    タンパク質表面の水和水について考えてみると、溶解状態のタンパク質液が、凝集するまでのイベントは、以下の様になる。

    「秩序化」→「気液界面の表面張力を増加させる」→「広くなった界面は不安定になる」→「溶液は安定化させようとする」→「表面を枯らそうとする→タンパク質はより集まる」→「凝集する」

    カオトロープ

    カオトロープ; chaotropeは,水の水素結合ネットワークを無秩序化(カオス)する。溶解する理論すは、上述の逆の理屈である。Structure breakerとも呼ぶ.

    水構造緩和に対するコスモトロープとカオトロープ塩の影響

    https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/33031702

    表面張力

    水和を理解するための指標の一つ。surface tension, 表面をできるだけ小さくしようする性質。

    有機溶剤

    古くからDNA/RNAの沈殿材として用いられてきた。タンパク質への応用はアルコールによる血漿タンパク質の沈殿法から始まっている。

    原理は、水溶液の伝導率を低下させ、タンパク質間の静電反発力を強める結果、溶解度が減少するといわれるが、それだけではなく、有機分子とタンパク質の相互作用についても考慮する必要がある。

    エタノールとジオキサンの検討では、アミノ酸やペプチドの有機溶剤に対する溶解度を調べた論文では、疎水性側鎖を安定化させ、親水性の側鎖やペプチド結合を不安定化させることがわかっている。

    還元Albの検討では、エタノールは、タンパク質の疎水性部分と相互作用し変性させながら溶解度を上げるが、荷電残基の影響によりタンパク質の溶解度は低下した。

    ハロゲン系アルコールの検討では、50%トリプルオロエタノール中では、主鎖の間にできる水素結合が弱められる結果、αベリックス構造に富んだ構造に変性するが、溶解度は高くなり、最終的には、透明なゲルになる。

    エタノール中でのタンパク質の凝集の制御は、わずかなpHシフトにより可能である。凝集を防ぐにはpHをpIから外すことである。

    ①構造変化を伴う疎水性の変化

    ②溶液の伝導率の低下

    ③相互の非極性領域の相互作用

    ④相互の荷電残基の相互反発

    高分子

    高分子の中でもPEGは無毒であり、よく使用され、無荷電である。PEGは、タンパク質の選択的水和を促す。

    芳香属アミノ酸では、その溶解度は増加する。高分子が存在すると、タンパク質が存在できる空間が狭くなる。これを排除体積効果という。

    PEGは、以下の2つの作用を有する。

    ① 排除体積効果によるタンパク質の安定化と凝集

    ②弱い変性作用(疎水性アミノ酸に結合)によるタンパク質の不安定化と溶解促進

    また、高分子は、タンパク質のFoldingにも影響し、高濃度のPEGや多糖では、変性状態を不安定化させるので、ネイティブ構造が安定化し、Folding速度が増加する。

    編集履歴

    2020/11/02 追記 : はじめに
    2021/05/21 文言整備
    2021/06/01,追記(「はじめに」の説明を更に補充)
    2022/09/04,文言整備(課題として「取扱いとして液状での操作が悪いこと」を削除,遠心機は自動連続遠心機などの機種が開発されてきたことから,遠心機の取り扱い上の課題は低くなっていること,を追記)
    2022/11/24,文言整備
    2022/12/20,追記(カオトロープ,コスモとロープの英単語)
  • [Data Link] rAAV vectorの沈殿法を使った精製方法に関する文献のリンク – ID745

    [Data Link] rAAV vectorの沈殿法を使った精製方法に関する文献のリンク – ID745

    文献情報のみ

    A simplified purification method for AAV variant by polyethylene glycol aqueous two-phase partitioning Cell Pellet→Lysis→Nuclease→PEG8000-NaCl Precipitation. Replace from ultracentrifugation to precipitation procedure 10% PEG8000, 13.2% (HN4)2SO4
    Culture Supernatant + PEG solution (1/4 vol)→stir slowly 4℃, 1hr→4℃, 3hrs without string to allow full peciptation 40% PEG 8000, 2.4% NaCl, adjust pH7.4
    Adeno-associated Virus (AAV) AssemblyActivating Protein Is Not an Essential Requirement for Capsid Assembly of AAV Serotypes 4, 5, and 11make in 8% PEG 8000, 0.5 NaCl on ice for 3hrs. The pelet was suspet by 50 mM Tris-HCl (pH 8.5) and 2 mM MgCl
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    Helper-free Production of Laboratory Grade AAV and Purification by Iodixanol Density Gradient Centrifugation add 1:4 vol precipitation solution to supernatant from cell culture 40% PEG 8000, 2.5 M NaCl water

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