[GMP] OOS/OOTについて、いずれも規格品質試験の結果の態様、対処方法が異なる

Gmp

先ずは、規格とは,

規格とは英語で,specificationのことです.OOS/OOTを説明するためには,最初に規格について説明をする必要があります.以下、バイオ医薬品を前提に解説を進めますが,基本的には低分子化医薬品でも同じです。

規格内に収まっているいるかを検査するための試験があります。

この規格試験は,医薬品の品質をできるだけ網羅的に把握するために一般的には複数の試験で構成されています.

ある医薬品の製造ロットの製造工程が全て完成すれば,QC部門にて規格試験が実施されます。設定されている全ての規格試験を実施し,その結果の合否判定を行い合格と判断されれば,その製造ロットは使用可能,即ち出荷可能との判定が得られます.

この判定は,原薬においても製剤においても同様に行われます.

一方,構成されている規格試験の内の1つでも試験結果が規格範囲内に収まらない場合,「不適」と判断され,その製造ロットは使用も出荷されず原則廃棄されることになります.


目次


OOSとOOTの比較

最初に違いを表で比較しておきましょう.

  1. * OOS : out of specification
  2. * OOT : out of trend

🧩 OOSとOOTの違いまとめ:

項目OOSOOT
判定規格外(NG)規格内(OKだが異常)
対象製品試験結果トレンド(傾向)分析結果
扱い異常として必ず調査・処理経過観察や予防措置も重要
対応の緊急性高い中~低(ただし放置は危険)
出荷判断への影響大きい原則影響なし(長期的には影響あり)

OOSとは,

OOSとは,試験結果が規格外となった規格検査の判定の状態をいい,公定書、または社内で定められた許容基準の外側となった試験結果を指します.もしも.規格試験に組み込まれた試験項目の内,試験項目のうち一つでもその分析結果が「不適」と判断されれば、そのロットは廃棄されなければなりません.
 OOS結果への対処法としては、「欠陥調査」と呼ばれる手法があります。この手法はFDAのガイダンスに基づいて、実験室の欠陥を明確に立証できれば、再試験を実施して「適」の判定結果がでると,前回のOOS結果を無効にすることも可能です.
 OOS結果の調査には、「実験室の調査」、「製造工程の調査」、「再試験の実施」などのフェーズがあります.OOS結果は、製品の品質に影響を与える重要な問題なので、適切な対応が必要です.

◆ OOSの例:

  • 製剤の含量試験で、規格が「95〜105%」なのに、結果が「108%」だった。
  • 微生物限度試験で、許容値を超えた菌数が検出された。

◆ 対策・対応:

  1. 逸脱・調査手順(SOPが整備されていること)に従って調査を行う。
  2. ラボエラーか否かの確認(分析再現性やサンプル取り違え等)。
  3. 製造工程の検査
  4. 再試験の条件確認(無制限に再試験するのはNG)。
  5. **根本原因分析(RCA)とCAPA(是正措置・予防措置)**の実施。
  6. バッチの適否判断(最終的に製品の出荷可否を決定)。

OOSと対処法のケーススタディ

Q : 強熱残分試験のOOSの対応とは,場合によっては規格試験の不適が適とするまでの対処法によっては製品のリリースが可能ということか?

はい、ご指摘の通り、強熱残分試験(Sulfated Ash / Residue on Ignition)でOOS(Out of Specification)が発生した場合でも、適切な対処(OOS調査・科学的妥当性の証明)を経て最終的に製品のリリースが可能となるケースはあります。ただし、これはあくまで科学的妥当性、リスク評価、規制当局の受容性に基づいて判断されるべきもので、例外的な取り扱いです。


強熱残分試験のOOS対応に関する基本的な考え方

【1】強熱残分試験とは

  • 試料を高温(通常600~800°C)で強熱し、**無機残渣(灰分)**を測定
  • 原薬・添加物・製剤の**無機不純物(触媒残渣・充填剤・硫酸塩など)**の規格管理に用いられる
  • 「医薬品各条」「一般試験法(日本薬局方6.07など)」に基づき実施される

【2】OOS発生時の一般的な対応フロー(参考:FDA OOSガイダンス, PIC/S)

ステップ内容
① 仮説立て(初期調査)試験操作ミス(過量添加、サンプル分取誤り、機器設定ミスなど)の確認
② 試験再現性の確認同一試料を再測定し再現性を確認(同一試験者・別試験者)
③ 根本原因調査(RCA)製造・サンプリング・保管条件・設備・原料の異常有無を調査
④ 承認規格との整合性逸脱範囲・逸脱程度・リスクの大きさを定量的に評価
⑤ 科学的妥当性の証明例えば「検体の特性上、吸湿・酸化などによりわずかに灰分が増加する合理的理由がある」と説明できる場合など
⑥ 承認部門レビュー/品質保証の判断QRM(Quality Risk Management)に基づく最終判断
⑦ 必要に応じて是正措置(CAPA)再発防止や製造記録改訂、試験法の見直しなど

実際にリリースが認められる条件とは?

以下のような科学的根拠が文書化され、妥当と判断された場合は、逸脱していてもロットリリースが許容される可能性があります。

判定を妥当とするための条件内容
① 試験操作に誤差の余地があり、再試験で規格内になること例:サンプル分取量や加熱条件のブレなど
② 試験法に妥当性上の問題があると判断された場合例:過度の感湿性物質であり、強熱条件下で灰分が変動しやすいこと
③ 原材料や製法の由来で、わずかな無機残渣が理論的に説明可能な場合例:硫酸処理された中間体の痕跡が微量残留する合理性
④ 他の試験項目での品質担保ができている製品全体の品質、安全性、有効性に影響がないと判断されること
⑤ リスク評価が完了し、品質保証部門がリリースを承認GMPに基づいた管理体制の下での判断

注意:製品リリースは「例外的判断」であること

  • OOSが「不適」となった場合でも、品質の担保が明確であれば「リリースは可」となる場合がありますが、
    • それは 「OOSを受容した」のではなく、「OOSの結果は誤り/非本質的であると評価された」 という立場でなければなりません。
  • また、**継続的な改善(CAPA)や変更管理、承認書との整合性確認(CTD M3.2.SやPセクション)**が必要になる場合もあります。

まとめ

観点回答
OOSでもリリース可能か?科学的根拠と手順に基づけば可能な場合がある(例外的判断)
対応に必要なこと原因調査、再試験、リスク評価、文書化、QA判断
強熱残分試験の特性試験誤差が起きやすく、材質特性によって結果が変動しやすい試験項目
当局対応の要否繰り返し発生する場合、変更申請や照会対応が必要なこともある

OOTとは,

検査結果がこれまでに製造してきたロットの検査結果のトレンド(傾向)に合致しないことを指しますが,規格内なので「合格」であるものの「異常な兆候」として扱います。

OOTは品質管理において、将来の規格外結果を予防するための重要な警告指標とされています。
一方でOOSは、試験結果が既存の規格から逸脱した場合を指し、直ちに調査や対応が必要となります。OOTとOOSは異なる概念でありながら、どちらも医薬品の品質管理を維持する上で重要な役割を果たします。

◆ 例:

  • 安定性試験で、有効成分が規格内(例:95%以上)だが、以前は99%近くだったのに今回は95.1%と急に低下した。
  • 微生物数が通常「0〜2 CFU」だったのが、最近「10 CFU」が連続した。

OOS/OOTを管理する体制整備

OOS/OOTを効率的に管理するためには,以下の項目に示すような体制やシステムの整備が必要です.

  • SOP(標準作業手順書)でOOS/OOTの管理手順を明確化
  • データインテグリティの強化(記録の真正性、整合性の担保)。
  • トレンド管理のデジタル化・自動化(LIMSやMESの活用)。
  • 定期的な**品質レビュー(APR/PQR)**で全体傾向を把握。
  • 社内教育の徹底(特にQC担当者)。
解説 : APR / PQR の意味と違い

[GMP]「APR」と「PQR」は、製薬業界での定期的な品質評価に使われる専門用語で、医薬品の品質の一貫性・傾向・改善点を把握するためのレビュープロセス


対処手順

OOSへの対処

1. 初期調査(Phase Ia)

  • OOSが発生した場合、まず分析担当者と監督者が初期調査を行います。この段階で以下を確認します:
    • 試験方法、機器、試料、標準品に明確なエラーがないか。
    • 試験データに疑わしいピークや異常が含まれていないか。
    • 明確なエラーが認められた場合:
      • 試験を無効としてOOSデータも無効とします。
      • 再試験を実施します。
    • エラーが特定できない場合、更なる詳細な調査(Phase Ib)に進みます。

2. 詳細調査(Phase Ib)

  • 試験担当者と監督者が試験結果やプロセス(*)をさらに詳細に調査します:
    • 根本原因の特定を試みます。
    • 試験結果の傾向や差異を確認します。
    • 他成分や潜在的な干渉の可能性を検討します。
  • 原因が特定された場合:
    • 是正措置・予防措置(CAPA)を策定し、試験結果を記録します。
  • 原因が特定できない場合、製造部門やQAと連携して製造に関する調査(Phase II)を行います。
  • * : プロセスとは,
    • 試験の手順
    • 試験で使用する機器の状態
      • 試験機器のキャリブレーション(校正)やメンテナンスが適切に行われていたか。
      • 機器のエラーや異常動作がなかったか。
    • 試薬や試料の取り扱い
      • 試薬や試料の保存条件や管理が適切だったか。
      • 使用した標準品や試料に劣化や汚染がなかったか。
    • 操作環境
      • 試験が実施された環境(温度、湿度、清潔度など)が適切だったか。
      • 試験室の条件が試験への影響を与えないものであったか。
    • 人為的ミス
      • 担当者が試験操作中に手順を誤った可能性。
      • 試験データの記録方法に間違いや抜け漏れがなかったか。
    • つまり、「プロセス」とは試験全体の流れや環境、手順を指し、問題が生じている箇所を特定するために、試験を構成するすべての要素を包括的に見直すことを意味しています。

3. 製造に関する調査(Phase II)

  • 製品品質に影響を与える可能性のある以下の要素を調査します:
    • 製造工程、操作方法、設備の問題。
    • 原材料の品質など。
  • 製造で原因が特定された場合:
    • 是正措置・予防措置(CAPA)を策定し、記録します。
  • 製造で原因が特定できない場合、製品の品質への影響を評価する「インパクト調査」(Phase III)に進みます。

4. 製品へのインパクト調査(Phase III)

  • OOS結果が製品の品質、安全性、有効性に影響を与えるかどうかを科学的根拠や統計的分析に基づいて評価します。
  • 製品に影響がない場合
    • 試験結果を記録し、調査を終了します。
  • 製品に影響がある場合
    • バッチ廃棄、リコールなどの必要な対応を実施します。

OOTへの対処

「OOT(Out of Trend)への対処では、試験結果が規格内であることを考慮し、再試験や再サンプリングは基本的に行わないことが推奨されます。これは、OOTは規格外(OOS)とは異なり、品質基準を満たしているため、再試験を実施することでデータの一貫性を損なうリスクがあるからです。

代わりに、OOTへの対処では試験結果の傾向や変動を分析することが重要です。このため、以下の手法を活用します:

  • 品質照査: 過去の試験結果やバッチ間の一貫性を確認し、異常な傾向が繰り返されていないかを確認します。
  • トレンド分析: 通常値管理幅(Control Limits)や予測区間(Prediction Intervals)を設定し、試験結果の異常値を統計的に評価します。
  • 潜在異常の推定: 傾向からの逸脱が将来的に規格外(OOS)につながる可能性を検討し、リスク評価を行います。

これらの分析結果をもとに、必要に応じて(*1)CAPA(是正措置・予防措置)を発動し、試験結果と対応を記録します。OOTは早期警告の指標として、品質管理における予防的な役割を果たします。

*1 : 必要に応じてCAPA発動のケース:

CAPAとは

1. 傾向の持続的な逸脱

  • OOTが単発ではなく、複数のロットや時間経過にわたり繰り返して発生している場合。
  • この場合は、プロセスや操作に根本的な問題がある可能性があり、それを是正するためにCAPAを発動します。
  • 問題について具体的には例えば、「製造プロセス中の一貫性の欠如、あるいは定期的なメンテナンス不足が該当する可能性がある場合.

2. 将来のOOSのリスクが高い

  • トレンド分析の結果、傾向外試験結果(OOT)が規格内にとどまっているものの、今後OOS(規格外試験結果)に発展する可能性が示唆される場合。
  • OOSに発展する可能性の例: 「予測区間を超える変動が観察された場合」や「統計的に有意な傾向が確認された場合」といった客観的な基準。
  • この場合は、予防措置を講じる必要があります。

3. 製造工程や管理基準の不備が判明

  • OOTの分析から、製造工程、試験手順、または管理基準に問題があり、逸脱が発生している原因が特定された場合。
  • 例えば、機器の微細な不具合、設定ミス、または環境条件(湿度や温度)の変動などが該当します。
  • その他,工程記録の不備や人為的ミス

4. OOTが複数のバッチに波及している

  • 特定のバッチのみならず、他のバッチにも同様の傾向が見られ、製品シリーズ全体にわたり同様の傾向が観察され影響が懸念される場合。
  • これにより製品の一貫性や信頼性が損なわれる可能性があります。

5. 患者の安全性や品質への潜在的影響

  • OOTの原因が製品の品質、安全性、または有効性に何らかの潜在的影響を与える可能性が示された場合。
  • たとえば、有効成分の濃度が異常に変動する可能性がある場合などです。
  • 具体的な影響は,科学的根拠や臨床的リスク評価を用いて分析する必要がある。

6. 法規制または監査対応

  • 規制当局や内部監査によって、OOTが重大な問題として指摘された場合や、それに対する明確な対応が求められる場合。
  • 特にGMP(医薬品製造管理基準)の遵守が重要な場合です。
  • OOT問題として例えば, 「OOT管理が不十分であると判断された場合や、逸脱が文書化されていない場合」など。

7. データの傾向を説明できない場合

  • 詳細な調査を行ってもOOTの原因が特定できず、なおかつ将来的なリスクを否定できない場合。
  • このようなケースでは、予防措置としてCAPAを発動することが一般的です。
  • 予防措置として例えば,管理基準の再設定や試験条件の見直しを行う。

参考:

  1. Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical production – Guidance for Industry (FDA/CDER 2022)
  2. Handling of Out of Trend (OOT) Analytical Test Results (2020)
  3. OOSとOOT – OOS Phase 1初期調査の進め方 (2017)
  4. 【用語集】医薬品の英略語
  5. 規格外に対する取り扱い (2008)
  6. OOT管理手順
  7. Copilotの回答

編集履歴

2024/01/25, Mrはりきり
2025/03/18, 内容整備
2025/04/15 OOSケーススタディ追加