[Bio-Edu] AAV血清型別の組織別の感染親和性 – 感染とインテグレーション [2023/10/31]

AAVの感染とは

AAVのウイルス粒子表面を覆っているカプシドタンパク質の構造の違いで血清型が定義されています.このカプシドタンパク質が,細胞表面の受容体に親和性が高い場合に感染対象となり感染が容易になります.AAV1(血清型1)は,筋肉や肝臓に高い感染効率を示し,AAV5は中枢神経系や網膜などに高い感染性を示します.

また,アデノウイルス,レトロウイルスよりも抗原性が低いため近年,AAVを用いた遺伝子治療薬の開発が多く進められています.更に,AAVは,血清型によっては,免疫反応,中和抗体の産生を更に低減できることから,AAVを用いて遺伝子の運び屋(ベクター)として期待が高まっています.遺伝子治療に用いられる場合,製薬メイカーは,更に改良を加えて,治療効果の向上,副作用の低減化を独自の技術で図っています.

一般的にウイルスの副作の1つとしてウイルス遺伝子が細胞のゲノムにインテグレーションすることが多きな問題になります.AAVの場合,AAV の遺伝子はAAVS1遺伝子座にインテグレートします.しかし,recombinant AAV (rAAV) vectorでは、REP遺伝子(主に酵素活性)とCAP遺伝子(カプシド)の2つの遺伝子を除去しているためインテグレートされない理由です(ハリキリ解説: 天然のAAVではREP/CAP遺伝子がAAVのその他遺伝子と一体になっていることと比較して,rAAVでは,REPとCAP遺伝子は,ベクターとして個別に用意していることとの違いがあり,これによりインテグレートされない理由となっていると,現時点でのハリキリの余り深くない理解です)

REPタンパク質は,エンドヌクレアーゼ,ヘリカーゼ,ATPaseなどの節制を持ち,AAVゲノムの両端にある逆位反復配列(ITR)と結合して,ウイルスDNAと宿主DNAの間で切断や結合を行います.REPタンパク質は,宿主細胞の染色体上のAAVS1領域と親和性が高いため,インテグレーションのして安定的な潜伏感染状態をつくることになります.以上が,天然のAAVは,宿主細胞の染色体上にAAV遺伝子を自ら挿入(インテグレーション)できる仕組みです.

感染した細胞は,エピソーム(episomal)のままであり、非分裂細胞(non-dviding cell)内に長期間維持される可能性があります。

AAV血清型の違いによる組織別の感染親和性

参考にした情報は、2007年の日本の文献と、CMOサーピスを提供しているVIGENE社のサイトの2つです。

組織; tissueAAV1AAV2AAV3AAV4AAV5AAV6AAV7AAV8AAV9AAV-DJ
由来サルヒトヒトサルヒト1型+2型サルサルヒト
筋; muscle✔︎
+++
++++✔︎++✔︎
++
✔︎
++
肝臓; liver++++++✔︎
+++
✔︎
++
✔︎
肺; lung(+/-)(+/-)✔︎✔︎✔︎
(+/-)
中枢神経; central nervous system✔︎
(+/-)
(+/-)✔︎✔︎✔︎✔︎
網膜; retina✔︎✔︎✔︎✔︎
膵臓; pancreas✔︎
腎臓; kdney✔︎✔︎
心臓; heart✔︎✔︎✔︎
https://www.vigenebio.com/aav-packaging/ 「✔︎」で表示した情報源

4. AAVを利用した遺伝子治療
ウイルス 第57巻 第1号, pp.47-56, 2007
(表中の「+」、「-」、「+/-」で表示した情報源です)

http://jsv.umin.jp/journal/v57-1pdf/virus57-1_047-056.pdf

アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子導入

アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子導入|タカラバイオ株式会社 (takara-bio.co.jp)

編集履歴

2020/06/23, Mr.Harikiri
2023/10/31, 追記 (AAVの感染と遺伝子のインテグレーション)