AAVベクター
Adeno associated virus (AAV) ベクター(rAAV : recombinant AAV)作成に関する現在の技術 (2019現在でも)では、Rep/Cap遺伝子と目的の治療用遺伝子(GOI)とは、別々のPlasmidで作り、それを混合体として細胞にトランスフェクションする方法が一般的である.即ち、野生型のAAVの感染状況とは異なる人為的な方法でウイルスが作られる.
野生型(Wild type)のAAVの感染の場合、高い確率でターゲットとなっている染色体のある特定の位置に、そのAAVの遺伝子が組み込まれる。その位置は同定されている。
しかし、rAAVによるGOIの染色体DNAへの組み込みは、Wild Type AAVの場合とは異なり、染色体に組み込まれたとしても稀で、しかもランダムの位置に導入される考えられている。
AAVの血清型
今回紹介する文献(2003年)では、当時で1から8型が知られていたようだ。血清型2, 3および5はヒトより分離されたもので、2型が最もよく研究されている。
現在(2020)では、血清型9と10も知られており、血清型9では、脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子治療薬であるZolgensmaに使われている(2020/07/17追記)。
ベクター種ごとの特徴
- adeno associated virus( AAV )ベクターは、非分裂細胞への効率的な遺伝子導入と長期の遺伝子発現。他のウイルスベクターと比較してAAVの方が安全性に優れている。ただし、未分化な幹細胞への導入効率は低い。
- レンチウイルスベクター(HIVベクターが代表的)は、AAVベクター同様に非分裂細胞への効率的な遺伝子導入と長期の遺伝子発現。静止期にある幹細胞に適しており、ES細胞に効率よく遺伝子導入できる
- レトロウイルスベクター: 分裂細胞にしか遺伝子導入ができないため、造血系細胞への導入に絞られる
- アデノウイルスベクター: 非分裂細胞への効率的な遺伝子導入が可能であるが、遺伝子発現は長期持続しない
ウイルス種 | 例 | ターゲット | 発現持続性 | 安全性 |
AAV | AAV1~10 | 非分裂細胞 | 長い | 高い |
Lentivirus | HIV | 非分裂細胞 (ES細胞) | 長い | |
Retrovirus | 分裂細胞 (造血系) | |||
Adenovirus | 非分裂細胞 | 短い |
AAVのウイルス学的特徴
- AAVは、動物ウイルスの中で最も小型の線状1本鎖DNAウイルスであるパルボウイルス科(Parvoviridae)に属し、20-26nmの大きさで、ヒト成人での感染率は85%である。物理学的に極めて安定。
- AAV2のReceptorはヘパラン硫酸が想定され、FGF receptorやαVβ5インテグリンなどもreceptorとして示唆されている。
- AAV5のReceptorは、PDGF receptorであることが分かっている。
Parvoviridaeは3属
ここでは,AAVがどのウイルスに属しているのか,どんな特徴があるのか,について理解するために,その他のウイルスと比較する.
- Autonomous Parvovirus
- バルボウイルス属
- 複製にヘルパーウイルスを必要としない
- Dependovirus
- ディペンドウイルス属
- AAVのこと。複製にヘルパーウイルスを必要とする
- 病原性は認められていおらず、血清型は1から8が知られている
- Erythrovirus
- エリスロウイルス属
- 人に感染するB19と猿パルボウイルスは、赤血球への特異性と特徴的な転写機構から区別されている
AAVベクターとしての特徴
ウイルスゲノムは約5kbの線状1本鎖DNA.ブラス鎖とマイナス鎖は半々。ゲノムの両端に145b長のITR (inverted terminal repeat)がT型ヘアピン構造で存在し、プライマーの役割となり複製時に機能すると共に、ウイルス粒子へのPackagingと宿主細胞染色体DNAへの組込みにも機能する。
- AAVウイルスゲノム : 5kb,1本鎖DNA
- ゲノムの両端に145bのinverted terminal repeat (ITR)を有する.
- ITRは,T型ヘアピン構造をとっている.
- ITRは,複製時にプライマー機能,ウイルス内へのPackaging,宿主染色体DNAへの組込機能を有する.具体的には,以下の通り.
- p5プロモータからRep78, Rep68 (large Rep)のmRNAが転写: endonuclease, helical, ATPase は、プロモータ活性調節、ゲノム複製、宿主 第19版染色体長腕AAVS1領域(共通配列GAGCにRep78/Rep68が結合)へのゲノム組込み.
- ただし、AAVベクターでは、ITRに続けてRepはコードさせず、GOIを配置するため、特定箇所への組込み機能は享受できないが、稀に組み込まれるとそれはランダムになる傾向があり、且つ、アクティブな遺伝子領域に起こりやすい.非分裂の場合、挿入変異を心配する必要はないと考えられる
- p19プロモータからRep52, Rep40 (small Rep)のmRNAが転写: VP1, VP2, VP3のカプシド蛋白
- 単独感染では、(A)潜伏感染のみで済むが、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスが重感染するとAAVが複製されることになり、(B)溶解感染となる
- AAVベクターで導入された遺伝子は、ほとんどがエピソームとして存在していると考えられているため、増殖細胞の場合では、失われやすい.
- ゲノムが1本鎖であることから遺伝子発現には2本鎖になるStepが必要であり、その効率が高くない場合は、大量のベクターを必要とする
- 小型の粒子であることから、挿入できる遺伝子は小さくなる
- 重複関連が可能なため、別々のベクターを使って足りないものを導入することが可能 (コンカタマー形成が可能であるため、別々に導入(スプリットベクター)しても細胞内で連結される性質を利用できる)
臨床試験
参考文献によれば、AAV2ベクターによる血友病Bの臨床試験: 筋肉では一部の患者で効果があった。現在、肝臓で試験中(ベクターゲノムが精液中に一過性に検出されたが、生殖細胞への遺伝子導入は確認されていない)
以上
参考文献
- ウイルス 第53巻 第2号 pp.163-170, 2003, http://jsv.umin.jp/journal/v53-2pdf/virus53-2_163-170.pdf
- Dependoparvovirus, ViralZone
編集履歴 Mr.HARIKIRI 2019/12/31 文言整備、少々追記 2020/05/03 文言整備 2020/07/17 追記(Zolgensma) 2023/10/24 文言整備