はじめに
バイオ医薬品(biopharmaceutical)では,限外ろ過膜によるプロダクトの濃縮やバッファー置換が,必ず1つは,プロセスとして組み込まれている.TFF膜は高価であり再利用されて,繰り返し製造がおこなわれる.TFF膜の性能や洗浄不十分によるキャリーオバーなどが生じるリスクがあるが,プロダクトの品質を一定に保つためには,TFF膜の性能,キャリーオーバー管理は重要な項目である.
TFFの使用期限に関わる評価パラメータは,キャリーオーバーと性能です.キャリーオーバー(carryover)とは,前回の使用でクリーニングしきれなかった物質の持ち越しです.性能(performance)はろ過するものはろ過し,補足するものは補足する,というろ過能力とろ過流速です.
TFF膜の寿命(lifespan)を確認するアプローチには,前向き評価,同時評価があります.
- 前向き評価(prospective validation) : 製造承認申請前にデータを取得する.
- 同時評価(concurrent validation) : 実製造スケジュールに組み込まれる.
どちらのアプローチをとるかはを判断しなければなりません.
- 実製造スケジュールがタイトである場合は,予め評価データを取得する(prospective validation).その場合,製造承認申請データとして取得する期間が余分に必要となる.
- 同時評価(concurrent validation)とする場合は,実製造スケジュールに影響を及ぼさない場合に採用できる
評価パラメータ
- 洗浄条件(薬剤,蒸気など各種パラメータ)
- 経年劣化
- プロダクト,エンドトキシン,不純物残存量(carryover)
- ろ過性能
評価項目と方法など
- NWP (Normalized Water Permeation)
- バイオバーデン
- Host Cell DNA
- Host Cell Protein
- 収率
- 完全性試験(巨大な穴によるリーク)
- TMP(膜貫通圧; TMP対フラックス曲線)
- FTIR(フーリエ変換赤外)やラマン分光法による膜の状態分析(タンパク質蓄積など)
- 定期的なブランク分析(例えば水により運転し,リークする物質の分析,上記に記載の試験の実施,HPLC分析,ELISA,SDS-PAGE分析,TOC分析)
前向きバリデーション
前向き評価(prospective validation)小規模の膜システムを使用して寿命(lifetime)を評価パラメータから評価するアプローチです.その評価を使用後20回毎に行ったとします.その結果120回が使用可能(resusable)と判断された場合,実製造スケールでの使用には,その回数以内での使用期限を規定できます.例えば100回の使用が可能と規定します.
同時バリデーション
同時バリデーション(concurrent validation)は,例えば,他の事例から100回の使用が可能である情報があったとします.そこで使用目標回数を100回と定めて実製造を開始し,同時に同時バリデーションをスケジュールに組み込みます.
用語
NWP: Nomalized Water Permeability
NWPとは、ノーマライズド・ウォーター・パーミアビリティ(Normalized Water Permeability)の略で、TFFのメンブレンの透過性を表す指標です.NWPは、メンブレンの孔径や材質、水の流量や圧力,温度などによって変化します。NWPが高いほど、メンブレンの透過性が高く、ろ過流量が大きくなります。NWPが低いほど、メンブレンの透過性が低く、ろ過流量が小さくなります。NWPは、メンブレンの性能や劣化の評価に用いられます.NWPの計算式は以下の通りです。
NWP=PJ×Sμ
J: 水の透過流速(単位面積あたりの水の流量,L/h/m2)
P: メンブレンにかかる圧力(bar)
μ: 水の粘度(?, この式に納得できないので,後日調べて訂正予定)
S: メンブレンの有効面積(m2)
NWPの単位は、L/m2/h/bar
参考文献
Lifetime Studies for Membrane Reuse: Principles and Case Studies – BioPharm, 2007
Lifetime Studies for Membrane Reuse: Principles and Case Studies (biopharminternational.com)
Protein Concentration and Diafiltration by Tangential flow Filtration – MILLIPORE
MILLIPORE_TFF.pdf (huji.ac.il)
KrosFlo® KMPi TFF System – REPLIGEN
KrosFlo® KMPi Tangential Flow Filtration (TFF) Systems | Repligen
MF / UF技術の進展と展望
MF / UF技術の進展と展望 (jst.go.jp)
Validation Guide.
T-Series TFF Cassettes with Delta Membrane USTR 2661 – PALL – For use with Centramate™ and Centrasette™ TFF Systems
12.8028_USTR2661(2)_T-Series_Cassettes_Delta_TS_VG_EN.pdf
TangenX® TFF Cassette Air Integrity Testing – REPLIGEN
IF.UG.027.pdf (repligen.com)
Protocol Guide
Pellicon(R) Ultrafiltration (UF)/Diafiltration (DF) Operations – Millipore
rf1159en-mk.pdf (sigmaaldrich.com)
Evaluation of Novel Large Cut-Off Ultrafiltration Membranes for Adenovirus Serotype 5 (Ad5) Concentration (2014)
Summary: 500kDa cut-off used for Ad5 concentration, 10-fold concentration factor with 100% recovery.
Evaluation of Novel Large Cut-Off Ultrafiltration Membranes for Adenovirus Serotype 5 (Ad5) Concentration | PLOS ONE
編集履歴
2023/11/12, MR.HARIKIRI