ID15631
はじめに
ADCC活性は、NK細胞などの免疫エフェクター細胞(immune effector cells)上に存在する抗体のFc領域に対するレセプターであるRcγRIIIaが関与しています。
IgG1のFc領域は、FcγRIIIaと結合親和性があり、その結合強度によってADCC活性が増強されます。この結合親和性の強さに影響するのが、Fc領域の糖鎖です。一般的にFc領域には、糖鎖結合部位がありますが、付加されている糖鎖として「フコース; fucose」含有量が少なければ、立体構造上から結合力が増加してADCC活性(エフェクター機能)が高まることが知られています。
fucoseは、Fc領域の糖鎖負荷領域のN型結合グリコシル(N-linked glycosylation)に付加されます。
ADCC活性とCDC活性
抗体のFc領域を介した生体反応は、(1) IgG1のFc領域と補体系のC1分子と作用する古典経路の活性化を惹起します(CDC)。また、(2) IgG1のFc領域とFc受容体(FcγIIIa)を介して貪食細胞の動員による作作用経路の活性化(ADCC)を惹起します。
- CDC (complement-dependent cytotoxicity)
- ADCC (Antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)
FcとRcγレセプターの結合親和性
FcγIIIaは、Fc領域にあるヒンジ部とCH2ドメインと相互作用します。
この相互作用は、CH2ドメインのAsn297 (N297)に付加される糖鎖構造に左右されます。この糖付加をできなくするアミノ酸の変異により、FcγRIを除くFcγRs (FcγRII, FcγRIII)への結合親和性は完全に消失します。
ヒトにおける天然のIgGの付加糖鎖は非常に不均一です。そのfucosylation研究では、フコシル化(afucosylation)のレンジは、1.3%~19.3%でした2)。CHO細胞から作られているモノクローナル抗体のフコシル化は、90%程度です。この差によるADCCやCDCに関わる活性の違いが生じています。
FcγIIIの遺伝子は2つ
FcγIIIの遺伝子は、2つあり、FcγIIIa (細胞の膜貫通型;殆どのエフェクター*)細胞で発現 )とFcγIIIb (好中球でのみGPIアンカー型タンパク質として発現)です。その配列相同性は97%ですが、FcγIIIbのADCCはありませ。しかし、貪食に関する役割を持つ可能性があります。
- FcγIIIa (殆どのエフェクター細胞)
- FcγIIIb (好中球のみ)
編集履歴
2020/05/22 はりきり(Mr) 参考文献1)を基に解説
FcγIIIaの対立遺伝子*)には、Val(V158)とPhe (F158)が知られていますが、FcγIIIa-V158では、より高いIgG1結合親和性(10倍)を持っています。anti-epidermal growth factor receptor (EGFR)、anti-CD20で、その観察結果が出ています。
- V185
- F185
関連する抗体医薬 (ADCCによる癌細胞の破壊)
Protein fucosylation in mammalian system
Fucose (6-deoxycholate-L-galactose)は、哺乳動物細胞におけるN及びO型グリカンの共通成分です。
Fucose付加反応を担う酵素は、ヒトでは13種類のフコシルトランスフェラーゼ : FUT (fucosyltransferase)が知られています。
FUTは、fucose residue (フコース残基)をGDPフコース (GDP-β-L-フコース: 細胞室内(cytoplasm)で合成、フコシル化反応の基質)からアクセプター基 (acceptor substrate)に転移します。
細胞室内のGDP-fucoseの合成には、de novo経路が大半を担い、salvage pathway (生体でのフコースの再利用)はその一部を担っています。
- de novo回路 → GDP-fucose → (cytoplasm) → fucose residue
de novoは更に、GDP-mannoseからGDP-fucoseに変換する反応も担っています。
- GDP-mannose →(by GDP-mannose 4,6 dehydrates (GMD) and GDP-keto-6-deoxymannose 3,5-epimerase/4 reductive)→ GDP-fucose
- GDP-fucose → ( Golgi apparatus or endoplasmic reticulum (ER) )
- GDP-fucose transporter (GFT), encoded by the Slc35cl gene (Solute Carrier family 35), この遺伝子の変異は、白血球接着不全II型(LADII)、重度の免疫不全、精神遅滞、成長鈍化(グリコシル化IIc型の先天疾患)の発症につながります。
FUT | 機能 |
1 | fucose residue →(転移)→ terminal galactose α1,2 linkageの形成 |
2 | 同上( same as above) |
3 | α1,3/α1,4 – fucosyltrasferase (Lewisa, Lewisb合成と関連構造に関わる)反応 |
4 – 7 | α1,3 – fucosyltransferase (ABHとLewis抗原の合成) |
8 | α1, 6 – fucosyltransferase (fucose – innermost(最も内側) N-acetylglucosamin on N-glycans) 肝臓以外の組織で広く発現しているが、肝細胞癌 (HCC)でアップレギュレーとされる |
9 – 11 | α1,3 – fucosyltransferase (ABHとLewis抗原の合成) |
(POFUT1) | O-fucosyltransferase Ser/Thr残基にfucoseを直接付加 (ER内) |
(POFUT2) | O-fucosyltransferase Ser/Thr残基にfucoseを直接付加 (ER内) |
ガン抗原としてのLewis構造
Lewis抗原は、癌細胞が血管内皮 (vascular endothelium)へ接着する際に機能します(血行性移転)
Lewis関連の3糖または4糖 (ルイス抗原)は、炎症反応におけるリンパ球のホーミング中に白血球の接着に重要な役割を果たします。
Lewis構造
- ルイス抗原 type-1 (Lewis)
- Lewisa (Lea)
- sialyl-Lewisa (SLea) : ガン抗原CA 19-9と共に腫瘍マーカーとして一般的に使用
- Lewisb (Leb)
- ルイス抗原 type-2 (Lewisb)
- Lewisx (Lex)
- sialyl-Lewisx (Slex)
- Lewisy (Ley) : ヒトの消化管粘膜のO型結合グリカンと類似
ADCCの増強
- 抗体のFc領域 – FcγRIIIa の結合をトリガーとする
- FcγIIIaを持つ免疫細胞は、NK細胞
- 標的細胞を殺すサイトカイン/細胞溶解剤の放出
- ADCC活性は、FcのN-グリカンの影響を受ける
- CHO細胞由来のIgGでは、そのN-グリカンのコア位置に付加されたフコース残基は、異種の2分岐複合型であり、N-グリカンには、シアル酸は殆ど含まれない
- G0 galactose residue
- G1 galactose residue
- G2 galactose residue
- CHO Lec13細胞由来IgG1抗体と野生型CHO細胞由来との比較研究では(Shields er al.)、
- CHO Lec13細胞は、GMD遺伝子変異があり、非フコシル化N型糖鎖の含有率が高い
- CHO Lec13細胞で作ったIgG1のFcγIIIaへの結合親和性は、50倍増強(NK細胞/PBMC)
- ガラクトースやバイセクティングGlcNacの存在ではなく、フコースの不存在がADCCを高める(Shinkawa er al.)
- 別の研究では、コアフコースの除去が最大のADCC活性をは達成すると示唆した (コアフコースの除去と、S229D / D298A / I1332Eのミューテーションでは、ADCC活性の増強の差は無かった)
- FcγRIIIのアミノ酸変異 (Asn162Gly)とIgGとの結合研究によるADCC活性の増強の比較
- IgG-フコースフリーとFcγRIIIa-Asn162 >> IgGネイティブグリカンとFcγRIIIa-Gln162 > IgGネイティブグリカンとFcγRIIIa-Asn162
- IgG-フコースフリーとFcγRIIIa-Asn162 >> IgGネイティブグリカンとFcγRIIIa-Gln162 > IgGネイティブグリカンとFcγRIIIa-Asn162
- Fcのガラクトシル化とシアリル化によるADCC増強は、コアフコース除去と比較して限定的だが、Alanineスキャンにより増強効果が確認された。
- Fcエンジニアリング(IgG1)
- FcγRIIIaとの相互作用最大1倍の増強(増強しない)(T256A、K290A、S298A、E333A、K334A)
- FcγRIIIaとの相互作用最大169倍 (S239D or I332E、S239D and I332E、S239D and I332E and A330L
- 「活性化FcγRIIIa」と「阻害性RcγRIIb」との結合比を最大9倍 (S239D and I332E and A330L): Xencorによるヒト化の抗CD19抗体(XmAb5574: 広範囲のBリンパ腫および白血病の細胞株に対するADCC活性増強、患者由来急性リンパ牙球性白血病とマントル細胞リンパ腫細胞のタイルADCC活性増強)
afucosilated 抗体の生産戦略
GDP-fucoseの生合成酵素
CHO Lec13細胞は、内因性(endogenous)のGDP-mannose 4, 6 – dehydratase (GMD) 遺伝子を欠乏しています。GMDは、de novo GDP-2 fucose生合成3経路 (biosynthesis pathway)の最初のステップの触媒を担っています。
GMD遺伝子を欠乏しているにも関わらず、フラスコ培養で培養した結果、フコシル化抗体の比率は、50~70%になったという研究があります。
mRNAレベルでGMDが少なからず発現しており、別の発現パスウェイがあると考えられます。
GDP-keto-6-deoxymannose 3,5-epimerase/4 reductive (FX) – ノックアウト CHO細胞を用いて、完全にフコシル化を抑えたという研究もあります。
FUT8
Fut8遺伝子の発現レベルが低いYB2/0細胞を使用した研究 (CHO細胞との比較, Arakawa er al.)
- humamized anti-human interleukin-5 receptor (IL-5) IgG1 antibody (KM8399) in YB2/0 cell
- core fucose of KM8399 was lower level
- 産生したIgG1は、いずれの細胞でも同様の抗原結合性を示した
- YB2/0細胞由来では、コアフコースのレベルが低くく、ADCC活性は、約50倍であった
- YB2/0細胞のFUT8 mRNAレベルは、有意に低くかった
FUT8遺伝子の不活化(Yamane er al.)
- 抗CD20抗体産生CHO細胞 DG44細胞株
- FUT8対立遺伝子ともにゲノム領域からのノックアウト(FUT8 -/-)
- 同様の培養増殖曲線と、同様の生産性
- 完全な非フコシル化抗体の産生
- 親株との比較で2倍のADCC増強
siRNAを使用したCHO DG44細胞の培養
- 60%の非フコシル化抗体の産生
CHO細胞のGDP-fucose transporter (GFT)を除去
- ゴルジ体のGDP-fucose transporter (GFT)遺伝子(Slc35c1)のノックアウトによるゴルジ体でのフコシル化反応を止める
- zinc-finger mucleases (ZFNs)、transcription activator-like effector nucleases (TALENs)及びCRISPR-Cas9、などの技術を用いた
- fluorescence-activated cell sorting (FACS)で分別 (Aleutian aurantia lectin (AAL) )
- 得られた細胞は、CHO-gmt3 (CHO-glycosylation mutant3)
- EPO-Fc融合タンパク質とIgG1抗体において、core fucoseは、完全に欠落していた
- この手法により、無血清培地、細胞増殖率、生存細胞密度についての安定株を2ヶ月で樹立することが可能
- CHO-K1細胞は、そのtranscriptome dataから、Golgi fucosyltransferaseの内、FUT8のみを発現していることが示されています
- Fut8よりもSut35c1をノックアウトする方(Stc35c1 -/-)が利点があると筆者は述べています。
- CHO細胞に適用した結果、培養増殖率、生存率、抗体産生などが同等であった
Bisecting GlcNac
β-1, 4-mannosyl-glycoprotein 4-β-N-acetylglucosaminyltransferase (GnT-III)は、普通CHO細胞では発現されません。
以下の2つの過剰発現のCHO細胞株は、抗CD20抗体GA101の宿主株として成功しています。最高レベルの(1) bisecting、(2) afucosylated glycansを、IgGで実現しました
- GnT-IIIの過剰発現
- これのみでCHO細胞でのFcコアのフコシル化が減少
- Golgi α-mannosidase II (αManII)の過剰発現
GnT-IIIは、以下を触媒します。
- 以下を結合 (β1,4)させて、bisecting GlcNAcを作る
- GlcNAc
- N-glycansのtrimannosyl coreのβ結合型mannose
GDP-フコース de novo経路
[GDP-fucose de novo(advice)経路]では、GDP-mannoseは、GKDMに変換される。
- GDP-mannose → (GDP-mannose-4,6-dehydratase)→ GDP-4-keto-6-deoxy mannose (GKDM)
- GKDM → (several downstream emzymatic reactions) →GDP-fucose
[バクテリア]では、GKDMはGDP-rhamnose形態に還元できます。GDP-rhamnoseは、細菌の一般的な細胞膜表面グリカンの1種です。
- GKDM → (GDP-4-keto-6-deoxy mannose reductase (RMD) )→ GDP-rhamnose
[CHO細胞]の細胞質内に、このRMDを異種発現することで、[GDP-Fucose de novo経路]がバイパスされるため、afucosylated IgGが作られます。最終産物であるGDP-rhamnoseは、GMDの阻害剤である可能性があります。
- GKDM → (GDP-4-keto-6-deoxy mannose reductase (RMD) )→ GDP-rhamnose
フコシル化阻害剤
遺伝子改変ではないアプローチとして、Okeley et al.による阻害剤研究があります。
- 2-fluorofucose
- 5-alkynylfucose
その作用機序は、以下のことが考えられます
- 細胞内GDP-fucoseの枯渇化 → de novo経路の遮断
- FUT8の阻害
植物細胞と後処理
植物細胞の利用
植物細胞では、以下の糖鎖が欠落します。
- α1,6-fucose
- β1,4-galactose
- α2,3-sialic acid
植物細胞では、通常、N-glycanは、(1)以下の糖鎖が付加されますが、(2)大きな糖鎖(哺乳動物でも稀に見られる)が付加されることもあります。
- Man3GlcNAc2コアに以下のもので糖鎖修飾
- β1,2-xylose ( mammalian では不要であり免疫原性がある)
- コアxhloseは、献血ドナーから抗体が検出される
- α1,3-fucose
- この糖鎖を含むGnGnXF3構造(免疫原性)
- コアα1,3-fucoseは、健常人献血ドナーから抗体が検出される
- β1,2-xylose ( mammalian では不要であり免疫原性がある)
- Large complex type N-glycans
- Lewisa構造
- α1,4-fucose
- β1,3-galactose
- Lewisa構造
Strategy to overcome this immunogenicity
植物由来の糖鎖の免疫原性を克服するには、以下戦略があります。
- RNAi knockdown of α1,3-fucosyltransferase (FucT) in plant
- β1,2-xylosyltransferase (XylT) in plant
- FucT/XylT-knowckout lines
水草のLemna minorで作ったafucosylated anti-CD30 monolclonal antibody
- 得られたG0構造のこの抗体は、CHO細胞由来と比べてADCC活性が改善されました
Anti-HIV 2G12 from XylT/FucT – knockdown N.benthamiana
- 得られたG0構造は、N-acetylglucosamine末端において、以下の糖鎖を欠落してさせることができました
- xylose
- α1,3-fucose
付加糖鎖を後処理で除去
- endo-β-N-acetylglucosamidaseなどのEndo SでN-glycanを切断
- その後、exoglycosidaseであるfucosidaseで、core fucoseを除去
- 残ったmono-GlcNAcは、不均一であるので、desialylated complex型のoxazolineの存在下、Endo Sベースのglycosynthases(グリコシンセターゼ)によるtransglycosylation (糖転移反応)を行う
- この方法は、コストがかかります
治療用のafucosylated mAbs
2018年現在で、3つのafucosylated mAbsが市場に、20以上が臨床試験にあります。
name and company | Target andformat | comment |
obinutuzumab/GA101/Gazyva Roche | CD20 Humanized IgG1 with low fucose content | Marketed first glycoengineered therapeutic anti-CD20, in 2013 by FDA 3 x Phase 1~3 |
mogamulizumab/POTELIGEO/KM0761 Kyowa Hakko Kirin | CD chemokine receptor 4(CCR4) Humanized afucosylated IgG1 | Marketed in lymphoma first approved in 2013 in Japan for hematologic malignancies in 2014 for cutneous T-cell lymphoma (CTCL) in 2017, FDA granted itbreakthrough, FUT8-knockout CHO 10 x Phase1~3 |
Benralizumab/MDEI-563/Fasenra AstraZeneca | IL-5Rα Humanized afucosylated IgG1 | Marketed in Asthma approved by FDA in 2017 for severe eosinophil asthma, FUT8-knockout CHO (Biowa Poteligent Technology), IL-5R 9 x Phase1~3 |
Inebilizumab/MEDI-551 Medlmmune | CD19 Humanized afucosylated IgG1 | 10 x Phase1,2 and 3 (lymphoma,myeloma) |
Ublituximab/TG1101/LFB-R603 TG Therapeutics Inc | CD20 Chimeric IgG1, low fucose content | 10 x Phase 1,2 and 3 in lymphoma, leukemia |
TrasGEX/GT-MAB7.3-GEX/Glycooptimized Trastuzumab-GEX | HER2 Mumanized glyco-optimized (reduced fucosylated IgG1) | Solid Tumors in Phase 1 (completed) |
SEA-CD40/Seattle Genetics | humanized afucosylated anti-CD40 IgG1 | Cancer and carcinomas in Phase 1 |
以上
参考文献
1)
The “less-is-more” in therapeutic antibodies: Afucosylated anti-cancer antibodies with enhanced antibody-dependent cellular cytotoxicity, 2018
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6150623/
2)
Glycosilation engineering of therapeutic IgG antibodies: challenges for the safety, functionality and efficacy
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5777974/#!po=7.60870
3)
Improved in vitro and in vivo activity against CD303-expressing targets of the chimeric 122A2 antibody selected for specific glycosylation pattern, 2018
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5973763/
4)
細胞性免疫・エフェクター細胞 – 日本ガン免疫学会
http://jaci.jp/patient/immune-cell/immune-cell-04/
5)
対立遺伝子
https://mycode.jp/glossary/allele.html
編集履歴
2020/02/22, by Mr.Harikiri