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  • USPとは何か:バイオ医薬品CMCで頻出するUpstream Processの基礎 [2026/05/23]

    USPとは何か:バイオ医薬品CMCで頻出するUpstream Processの基礎 [2026/05/23]

    はじめに

    バイオ医薬品のCMC資料を読んでいると、USPという略語が頻繁に出てきます。

    ここでいうUSPは、多くの場合、Upstream Process、すなわち上流工程を意味します。

    ただし、医薬品業界ではUSPという略語が別の意味で使われることもあります。代表例が**United States Pharmacopeia(米国薬局方)**です。そのため、CMC文書や技術移管資料では、文脈を見て「Upstream Process」なのか「米国薬局方」なのかを判断する必要があります。

    本記事では、バイオ医薬品のCMCで使われるUSP=Upstream Processについて、DSP、Drug Substance、工程開発、製造管理との関係も含めて整理します。


    USPとは:Upstream Processの意味

    バイオ医薬品製造における**Upstream Process(USP)**とは、一般に、目的タンパク質や抗体などを産生するために、細胞や微生物を培養し、目的物を含む培養液または収穫液を得るまでの工程を指します。

    典型的には、以下のような工程がUSPに含まれます。

    区分主な内容
    細胞株・種細胞セルバンク、WCBの解凍、種培養
    培地・フィード培地調製、フィード戦略、栄養制御
    培養フラスコ、シードバイオリアクター、本培養バイオリアクター
    工程制御温度、pH、DO、攪拌、通気、圧力、培養時間
    収穫細胞培養液の回収、ハーベスト、場合により清澄化前後の扱い

    EMAのバイオテクノロジー由来有効成分のプロセスバリデーションガイドラインでは、上流工程のバリデーションは、たとえばWCBの解凍から、定められた培養終了基準に基づく最終ハーベストの回収までの細胞培養ステップを対象にする、という趣旨で説明されています。

    Image

    USPとDSPの違い

    バイオ医薬品製造では、USPと対になる用語としてDSPがよく使われます。

    DSPはDownstream Process、すなわち下流工程です。

    簡単に言うと、USPは「作る工程」、DSPは「取り出して精製する工程」です。

    用語英語日本語のイメージ主な目的
    USPUpstream Process上流工程細胞を増やし、目的物を産生させる
    DSPDownstream Process下流工程目的物を回収・精製・濃縮する

    たとえば抗体医薬品では、USPでCHO細胞などを培養して抗体を産生させ、DSPでProtein Aクロマトグラフィー、ウイルス不活化、イオン交換、UF/DF、ウイルス除去ろ過などを組み合わせて原薬を得ます。

    つまり、USPとDSPは別々の工程名ではありますが、製品品質の観点では密接に連動しています。USPで得られるハーベストの品質、宿主細胞由来タンパク質、宿主細胞DNA、細胞破砕物、培地成分、凝集体傾向などは、DSPの負荷や精製設計に大きく影響します。


    CMCでUSPが重要になる理由

    CMCでは、製品の品質を一貫して確保できる製造方法であることを示す必要があります。

    USPは単なる培養操作ではなく、製品品質を作り込む工程です。

    特にバイオ医薬品では、低分子医薬品のように化学反応だけで目的物を作るのではなく、生きた細胞や微生物を利用します。そのため、培養条件のわずかな違いが、目的タンパク質の量だけでなく、糖鎖、電荷バリアント、凝集体、切断体、不純物プロファイルなどに影響する可能性があります。

    CMCでUSPが重視される理由は、主に以下です。

    観点USPで重要になる理由
    収量細胞増殖、発現量、培養期間により生産性が変わる
    品質特性糖鎖、電荷バリアント、凝集体などに影響し得る
    不純物HCP、HCDNA、培地由来成分、細胞破砕物が変動する
    安全性外来性ウイルス、微生物汚染、細胞基材管理が重要
    スケールアップ小スケールの結果が商用スケールで再現できるかが課題
    バリデーション工程が意図した通りに再現性よく機能することが求められる

    ICH Q5A(R2)は、ヒトまたは動物細胞株由来のバイオテクノロジー応用医薬品等について、ウイルス安全性の評価、試験、ウイルスクリアランスの考え方を扱うガイドラインです。USPでは細胞基材、培地、原材料、培養工程そのものがウイルス安全性評価と関係します。


    USPに含まれる代表的な工程

    USPは製品や製造方式によって異なりますが、抗体医薬品や組換えタンパク質では、一般に次のような流れになります。

    1. セルバンクの解凍

    製造は、多くの場合、Working Cell Bank、すなわちWCBの解凍から始まります。

    WCBは、製造に使用する細胞の出発点です。WCBの管理状態、解凍条件、初期生存率、増殖性は、その後の培養工程全体に影響します。

    2. 種培養・シードトレイン

    解凍した細胞を段階的に増やし、最終的に本培養バイオリアクターへ接種できる量まで拡大します。

    この段階では、細胞密度、生存率、倍加時間、培地交換、継代数、培養期間などが重要です。

    3. 本培養

    本培養では、バイオリアクター内で細胞に目的タンパク質を産生させます。

    主な管理項目には、以下があります。

    管理項目
    温度37℃付近、温度シフトなど
    pHCO₂、塩基添加などによる制御
    DO溶存酸素濃度
    攪拌細胞へのせん断影響、混合性
    通気酸素供給、CO₂除去
    フィードグルコース、アミノ酸、その他栄養成分
    培養期間生産性と品質のバランス
    細胞状態生細胞密度、生存率、代謝物

    これらは単なる運転条件ではなく、製品品質に影響し得る工程パラメータです。

    4. ハーベスト

    培養終了後、目的物を含む培養液を回収します。

    抗体医薬品など分泌型タンパク質では、目的物は主に培養上清中に存在します。一方、細胞内発現型の製品では、細胞回収や破砕操作が必要になる場合があります。

    ハーベスト液はDSPへの入力となるため、USPとDSPの境界に位置する重要な工程です。


    USP開発で検討される主な項目

    USP開発では、単に「よく増える培養条件」を探すだけでは不十分です。

    CMCの観点では、生産性、品質、再現性、スケールアップ性、管理可能性を同時に考える必要があります。

    検討項目内容
    培地検討基礎培地、フィード培地、成分濃度
    フィード戦略バッチ、フェドバッチ、連続添加
    培養モードバッチ、フェドバッチ、灌流培養
    温度シフト生産性や品質への影響
    pH・DO条件細胞増殖、代謝、品質への影響
    接種密度初期細胞密度の最適化
    培養期間収量と品質劣化のバランス
    スケールアップ小スケールから商用スケールへの移行
    CPP候補重要工程パラメータの特定
    CQAとの関係重要品質特性への影響評価

    特にCMC資料では、USPの条件がどのように設定され、その条件が製品品質にどのように関係しているかを説明できることが重要です。


    USPとCQA・CPPの関係

    CMCでは、CQACPPという用語も頻繁に出てきます。

    用語英語意味
    CQACritical Quality Attribute重要品質特性
    CPPCritical Process Parameter重要工程パラメータ

    USPでは、培養条件がCQAに影響する可能性があります。

    たとえば、以下のような関係が考えられます。

    USP側の要素影響し得る品質特性
    培養温度糖鎖、凝集体、発現量
    pH電荷バリアント、細胞代謝
    DO細胞増殖、代謝物、不純物
    培養期間分解物、凝集体、HCP
    フィード条件糖鎖、収量、代謝物
    細胞生存率HCP、HCDNA、細胞由来不純物

    もちろん、どのパラメータが本当にCPPになるかは、製品、細胞株、工程、品質特性、リスク評価、実験データによって決まります。

    そのため、USP開発ではDoE、スケールダウンモデル、工程特性解析、PPQ前のリスク評価などが重要になります。


    USPとプロセスバリデーション

    商用製造を見据えたCMCでは、USPが再現性よく機能することを示す必要があります。

    EMAのバイオテクノロジー由来有効成分に関するプロセスバリデーションガイドラインでは、上流工程について、細胞培養ステップが意図した通りに機能することを評価・検証するという考え方が示されています。

    USPのプロセスバリデーションでは、たとえば以下が論点になります。

    論点内容
    スケールダウンモデル商用スケールを適切に代表できるか
    工程パラメータ設定範囲、許容範囲、管理戦略
    ハーベスト基準培養終了時点の判断基準
    工程内試験細胞密度、生存率、代謝物、目的物濃度
    汚染管理バイオバーデン、マイコプラズマ、ウイルス安全性
    一貫性ロット間で同等の品質・収量が得られるか

    USPは生物学的な変動を含むため、「設定値どおりに運転した」だけではなく、工程の変動が品質へ与える影響を理解しておくことが重要です。


    USPと技術移管

    バイオ医薬品では、開発施設から製造施設、あるいはCDMOへ工程を移管する場面が多くあります。

    このとき、USPの技術移管では、単に培養条件表を渡すだけでは不十分です。

    移管で重要になるのは、以下のような情報です。

    項目技術移管で必要な情報
    細胞セルバンク情報、解凍条件、継代履歴
    培地組成、調製方法、保管条件、使用期限
    培養装置バイオリアクター仕様、スケール、センサー
    操作条件温度、pH、DO、攪拌、通気、フィード
    サンプリングタイミング、試験項目、判定基準
    ハーベスト終了基準、回収条件、保持条件
    逸脱対応細胞増殖不良、pH逸脱、DO低下、汚染疑い

    特にバイオリアクターは、メーカーやスケールが変わると、同じ攪拌rpmでも混合状態やせん断環境が変わる可能性があります。そのため、単純な数値移管ではなく、工程の意味を理解した移管が必要です。


    USPという略語の注意点

    CMC文書でUSPと書かれていても、必ずUpstream Processを意味するとは限りません。

    医薬品分野では、USPは**United States Pharmacopeia(米国薬局方)**を指すことも非常に多いです。

    略語意味主な文脈
    USPUpstream Processバイオ医薬品製造、CMC、工程開発
    USPUnited States Pharmacopeia薬局方、規格試験、一般試験法

    たとえば、「USP method」「USP chapter」「USP <85>」のような表現であれば、通常は米国薬局方を意味します。

    一方、「USP development」「USP/DSP」「upstream process」「cell culture process」といった文脈では、Upstream Processを意味する可能性が高いです。


    CMC資料でのUSPの書き方

    CMC資料では、USPについて次のような情報が求められます。

    記載項目内容
    工程概要WCB解凍からハーベストまでの流れ
    工程フローシード培養、本培養、ハーベスト
    原材料培地、フィード、添加物、ガス
    装置バイオリアクター、バッグ、センサー
    工程パラメータ温度、pH、DO、攪拌、通気、培養期間
    工程内管理細胞密度、生存率、代謝物、目的物濃度
    重要管理点CPP候補、CQAとの関係
    バリデーションスケールダウン、PPQ、工程性能
    変更管理スケール変更、培地変更、装置変更

    特に承認申請や技術移管では、USPを「操作手順」として説明するだけでなく、なぜその条件で管理するのかを説明できることが重要です。


    USPを理解するための実務的な見方

    USPを理解するには、工程を次の3つの視点で見ると整理しやすくなります。

    1. 細胞を増やす工程

    まず、細胞が健全に増殖することが必要です。

    細胞密度、生存率、倍加時間、代謝状態などが基本的な指標になります。

    2. 目的物を作らせる工程

    次に、細胞に目的タンパク質を産生させます。

    この段階では、収量だけでなく、糖鎖、電荷バリアント、凝集体などの品質特性が重要になります。

    3. DSPに渡せる状態にする工程

    最後に、培養液をハーベストし、DSPへ渡します。

    DSPにとって扱いやすいハーベストであるか、細胞由来不純物が多すぎないか、保持時間中に品質劣化が起きないかなどが重要です。


    まとめ

    USPとは、バイオ医薬品のCMCで頻繁に使われるUpstream Processの略語です。

    一般には、WCBの解凍から種培養、本培養、ハーベストまでの上流工程を指します。

    USPは単に細胞を培養する工程ではありません。製品品質、収量、不純物、安全性、スケールアップ、プロセスバリデーションに直結する、CMC上きわめて重要な工程です。

    特にバイオ医薬品では、USPでの培養条件が、目的物の品質やDSPへの負荷に大きく影響します。そのため、USPを理解することは、バイオ医薬品のCMCを理解するための基本になります。

    一方で、医薬品分野ではUSPが米国薬局方を意味する場合もあります。CMC文書を読むときは、USPがUpstream Processなのか、United States Pharmacopeiaなのかを文脈で判断することが重要です。


    用語集

    用語読み方意味
    USPユーエスピーUpstream Process。バイオ医薬品の上流工程。ただし米国薬局方を意味する場合もある
    Upstream Processアップストリームプロセス細胞培養などにより目的物を産生させ、ハーベストを得るまでの工程
    DSPディーエスピーDownstream Process。目的物を回収・精製する下流工程
    CMCシーエムシーChemistry, Manufacturing and Controls。品質、製造、管理に関する開発・申請領域
    WCBダブリューシービーWorking Cell Bank。製造に使う作業用セルバンク
    MCBエムシービーMaster Cell Bank。WCBの元になる親セルバンク
    Cell Cultureセルカルチャー細胞培養
    Bioreactorバイオリアクター細胞や微生物を培養する装置
    Harvestハーベスト培養後に目的物を含む液を回収する工程または回収液
    Fed-batchフェドバッチ培養中に栄養成分を追加しながら行う培養方式
    Perfusion Culture灌流培養培地を連続的に供給・排出しながら行う培養方式
    CQAシーキューエーCritical Quality Attribute。重要品質特性
    CPPシーピーピーCritical Process Parameter。重要工程パラメータ
    HCPエイチシーピーHost Cell Protein。宿主細胞由来タンパク質
    HCDNAエイチシーディーエヌエーHost Cell DNA。宿主細胞由来DNA
    PPQピーピーキューProcess Performance Qualification。工程性能適格性評価
    Scale-down Modelスケールダウンモデル商用スケール工程を小スケールで代表するモデル
    Technology Transfer技術移管開発施設から製造施設、またはCDMOなどへ工程を移す活動

    参考文献・出典

    【注意点・例外】

    USPは、CMC文脈ではUpstream Processを意味することが多いですが、医薬品全般ではUnited States Pharmacopeiaを意味する場合もあります。略語だけで判断せず、周辺語句を確認する必要があります。規制当局提出資料や承認申請資料での記載方針は、製品特性や申請地域により異なるため、最終判断にはCMC薬事・品質保証の専門家に確認が必要です。

    【確実性: 高】


    2022/11/14 Mr.Harikir

    2026/05/23 更新

  • [用語] intractable disease; 難病 [2022/11/14]

    [用語] intractable disease; 難病 [2022/11/14]

    intractable disease

    intractable disease ; 難病

    編集履歴
    2022/11/14 Mr.Harikir
  • DSPとは何か:バイオ医薬品におけるDownstream Processの役割[2026/05/23]

    DSPとは何か:バイオ医薬品におけるDownstream Processの役割[2026/05/23]

    バイオ医薬品の製造工程は、

    大きく USP(Upstream Process:上流工程)DSP(Downstream Process:下流工程) に分けて説明されることがあります。

    USPは、細胞株の構築、培養、発現、生産など、目的タンパク質や抗体などを「作る」工程です。一方、DSPは、USPで得られた培養液や細胞破砕液などから、目的物質を回収し、精製し、濃縮し、最終的に原薬として使える品質へ整える工程です。

    EMAのバイオテクノロジー由来有効成分のプロセスバリデーションに関するガイドラインでは、DSPは「最終ハーベスト後の最初の工程から始まり、望ましい品質の製品に至る工程」と説明され、細胞破砕、濃縮、不純物除去、ポリッシング、リフォールディング、修飾工程などを含み得るとされています。

    USPとDSPの違い

    USPとDSPの違いは、単に工程の前後関係だけではありません。工程の目的、管理すべきリスク、品質への影響の仕方が異なります。

    項目USP:Upstream ProcessDSP:Downstream Process
    主な目的細胞に目的物質を産生させる目的物質を回収・精製・濃縮する
    主な対象細胞株、培地、培養条件、バイオリアクター培養液、目的タンパク質、不純物、ウイルス、HCP、DNAなど
    代表的な操作細胞培養、発酵、培地交換、フィード制御遠心、ろ過、クロマトグラフィー、UF/DF、ウイルス除去
    品質への主な影響糖鎖、発現量、分解物、凝集体、培養由来不純物純度、不純物除去、濃度、安定性、ウイルス安全性
    失敗時の影響収量低下、品質属性の変動精製不良、回収率低下、不純物残存、品質不適合

    簡単に言えば、USPは「目的物質を作る工程」、DSPは「目的物質を医薬品品質に近づける工程」です。

    ただし、USPとDSPは独立していません。USPで生じた不純物、分解物、凝集体、培地成分、細胞由来タンパク質、宿主細胞DNAなどは、DSPで除去すべき対象になります。そのため、USPが不安定であればDSPの負荷も増え、DSPが十分に設計されていなければ、USPで良好に産生された目的物質も最終的な品質に到達できません。

    DSPの基本的な流れ

    DSPの構成は製品の種類、発現系、目的物質の性質、品質目標によって変わりますが、抗体医薬や組換えタンパク質では、一般に次のような流れで説明できます。

    1. ハーベスト後の清澄化

    USPで培養が完了すると、培養液には目的タンパク質だけでなく、細胞、細胞破片、培地成分、宿主細胞由来タンパク質、DNA、脂質、分解物などが含まれています。

    最初に行うのが、これらの固形物や大きな粒子を除去する清澄化です。代表的な方法には、遠心分離、デプスフィルター、精密ろ過などがあります。

    この工程の目的は、次の精製工程に適した状態の液体を得ることです。ここで細胞破片や濁りが十分に除去されていないと、後段のクロマトグラフィーカラムやフィルターが詰まりやすくなります。

    2. キャプチャー精製

    キャプチャー精製は、目的物質を大まかに回収し、多くの不純物から分離する工程です。

    抗体医薬では、Protein Aクロマトグラフィーが代表的です。Protein AはIgG抗体のFc領域に結合する性質があるため、抗体を選択的に回収しやすいという利点があります。

    この段階では、純度を一気に高めることができますが、同時に目的物質の回収率、カラム負荷量、溶出条件、pHストレス、凝集体形成などにも注意が必要です。

    3. ウイルス不活化・ウイルス除去

    バイオ医薬品、とくに細胞株を用いて製造される製品では、ウイルス安全性の評価と管理が重要です。

    ICH Q5Aでは、ヒトまたは動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品等について、ウイルス安全性評価の考え方が示されています。日本ではPMDAのICH Q5ページにもQ5A関連文書が掲載されています。

    DSPでは、低pH処理によるウイルス不活化、ウイルス除去フィルターによるナノフィルトレーション、クロマトグラフィーによるウイルスクリアランスなどが設計されることがあります。

    重要なのは、単にウイルス除去工程を入れることではなく、工程全体としてどの程度のウイルスクリアランス能力があるかを示すことです。

    4. 中間精製・ポリッシング

    キャプチャー工程の後には、さらに不純物を減らすための中間精製やポリッシング工程が置かれます。

    代表的な不純物には、次のようなものがあります。

    不純物内容
    HCPHost Cell Protein:宿主細胞由来タンパク質
    HCDNAHost Cell DNA:宿主細胞由来DNA
    凝集体目的タンパク質同士が会合したもの
    分解物目的タンパク質が切断・変性したもの
    Protein A漏出物Protein Aクロマトグラフィー由来の残留成分
    エンドトキシン主に微生物由来の発熱性物質
    培地由来成分培地、添加物、フィード成分の残留

    ポリッシングでは、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ミックスモードクロマトグラフィーなどが使われます。

    目的は、製品関連不純物と工程由来不純物を管理し、最終的な品質、安全性、有効性に影響し得る要素を十分に低減することです。

    5. UF/DFによる濃縮・バッファー交換

    UF/DFは、Ultrafiltration / Diafiltrationの略です。日本語では限外ろ過・透析ろ過などと説明されます。

    UFでは目的物質を濃縮し、DFでは目的物質の周囲のバッファー成分を置き換えます。たとえば、精製工程後の中間液を、原薬として適した濃度、pH、塩濃度、添加剤組成に調整する目的で行われます。

    この工程では、膜への吸着、濃縮による粘度上昇、凝集体形成、せん断ストレス、処理時間、温度管理などが重要になります。

    6. 原薬工程としての最終調整

    DSPの終盤では、必要に応じて濃度調整、ろ過、バイオバーデン管理、無菌ろ過、保管条件の設定などが行われます。

    バイオ医薬品はタンパク質などの高分子であることが多く、温度、pH、光、酸化、界面、せん断などの影響を受けやすいという特徴があります。ICH Q5Cでは、バイオテクノロジー応用医薬品・生物起源由来医薬品の安定性試験において、タンパク質やポリペプチドが環境因子の影響を受けやすいことが説明されています。

    そのためDSPでは、精製できればよいだけでなく、精製中に目的物質を壊さないことも重要です。

    DSPで管理すべき品質リスク

    DSPでは、多くの単位操作が連続して行われます。それぞれの工程で品質リスクが異なります。

    不純物除去

    DSPの中心的な役割は、不純物を除去することです。とくにHCP、HCDNA、凝集体、分解物、ウイルス、Protein A漏出物などは、製品品質や安全性に影響する可能性があります。

    ただし、不純物を強く除去しようとすると、目的物質の回収率が低下することがあります。したがって、DSPでは「純度」と「収量」のバランスが重要になります。

    回収率

    DSPでは、各工程で少しずつ目的物質が失われます。たとえば、フィルターへの吸着、カラムへの不可逆吸着、洗浄時の流出、凝集体化による除去などです。

    各工程の回収率が低いと、USPで高い発現量を達成しても、最終的な原薬量は少なくなります。

    凝集体・分解物の増加

    タンパク質医薬品では、精製中のpH変化、塩濃度変化、温度変化、濃縮、界面接触、せん断などにより、凝集体や分解物が増えることがあります。

    そのため、DSPでは不純物を取り除くだけでなく、目的物質を安定な状態に保つ設計が必要です。

    スケールアップ時の変動

    ラボスケールで成立したDSPが、そのまま製造スケールで再現できるとは限りません。

    カラム径、線速度、滞留時間、圧力、膜面積、処理時間、ホールド時間、温度管理などが変わると、品質や回収率に影響することがあります。

    FDAのプロセスバリデーションガイダンスでは、プロセスバリデーションをライフサイクルの考え方で捉え、工程設計、工程適格性確認、継続的工程検証の考え方が示されています。DSPもこの枠組みの中で、工程理解と管理戦略を構築する対象になります。

    DSPとUSPはどちらが重要か

    結論から言えば、どちらも重要です。

    USPが不安定であれば、目的物質の量や品質が変動します。その結果、DSPに入る原料の性状が変わり、精製工程の負荷が変わります。

    一方、DSPが弱いと、USPで十分な量の目的物質を作れても、不純物を除去できない、回収率が低い、凝集体が増える、ウイルスクリアランスが不足するなどの問題が生じます。

    NIHの生物製品に関するRegulatory Knowledge Guideでも、堅牢で一貫した上流工程は、堅牢で一貫した下流工程と生物製品のために重要であると説明されています。

    したがって、USPとDSPは「前工程と後工程」ではなく、「相互に影響する一体の製造プロセス」として理解する必要があります。

    DSPの実務で重要になる考え方

    1. DSPは後始末ではない

    DSPは、USPで作られたものを単にきれいにする後処理ではありません。品質、安全性、収量、製造コスト、スケールアップ性を決める重要工程です。

    とくに抗体医薬や組換えタンパク質では、DSPの設計が製造コストに大きく影響することがあります。Protein A樹脂、ウイルス除去フィルター、クロマトグラフィー樹脂、フィルター、バッファー、処理時間などは、製造原価や設備設計にも関係します。

    2. DSPは品質属性と結びつけて考える

    DSPで管理すべき項目は、単なる工程条件ではありません。CQA(Critical Quality Attribute:重要品質特性)と結びつけて考える必要があります。

    たとえば、凝集体がCQAであれば、低pH処理、濃縮、ホールド時間、温度、撹拌条件などが凝集体形成に影響しないかを評価する必要があります。

    3. DSPは工程変更時の比較性評価にも関係する

    バイオ医薬品では、製造工程の変更が品質、安全性、有効性に悪影響を与えないことを示す必要があります。ICH Q5Eは、バイオテクノロジー応用医薬品・生物起源由来医薬品の製造工程変更前後の比較性評価に関する考え方を示しています。

    DSPの変更、たとえばクロマトグラフィー樹脂の変更、膜の変更、工程順序の変更、処理条件の変更、スケール変更などは、比較性評価の対象になり得ます。

    USPとDSPの関係をイメージで理解する

    USPとDSPの関係は、次のように整理できます。

    細胞株・培地・培養条件

    USP:目的物質を産生させる

    ハーベスト液

    DSP:回収・清澄化・精製・濃縮・不純物除去

    原薬

    製剤化工程

    最終製品

    USPの出口は、DSPの入口です。
    DSPの入口品質が変動すれば、DSPの負荷も変動します。
    DSPの設計が不十分であれば、USPで得られた目的物質を十分に製品品質へ仕上げることができません。

    まとめ

    DSPは、バイオ医薬品製造において、目的物質を回収し、精製し、不純物を除去し、原薬として使える品質へ整える重要な工程です。

    USPが「作る工程」であるのに対し、DSPは「取り出して、きれいにし、品質を整える工程」です。

    しかし、USPとDSPは別々に考えるべきものではありません。USPで決まる培養液の性状、不純物プロファイル、目的物質の品質は、DSPの設計や性能に直接影響します。一方、DSPの精製能力、回収率、安定性管理、ウイルスクリアランス能力は、最終的な製品品質に直結します。

    バイオ医薬品の製造では、USPとDSPを一体のプロセスとして捉え、工程理解、品質リスク、CQA、CPP、プロセスバリデーション、比較性評価を結びつけて考えることが重要です。

    用語集

    用語意味
    DSPDownstream Process。下流工程。目的物質を回収・精製・濃縮する工程
    USPUpstream Process。上流工程。細胞培養や発酵により目的物質を産生させる工程
    ハーベスト培養終了後に目的物質を含む培養液などを回収すること
    清澄化細胞、細胞破片、濁りなどを除去する初期工程
    キャプチャー目的物質を大まかに回収し、不純物から分離する精製工程
    ポリッシング残存不純物や凝集体などをさらに除去する仕上げ精製工程
    UF/DF限外ろ過・透析ろ過。濃縮やバッファー交換に用いられる
    HCPHost Cell Protein。宿主細胞由来タンパク質
    HCDNAHost Cell DNA。宿主細胞由来DNA
    CQACritical Quality Attribute。重要品質特性
    CPPCritical Process Parameter。重要工程パラメータ
    ウイルスクリアランス製造工程におけるウイルス不活化・除去能力
    Protein AIgG抗体精製でよく使われるアフィニティーリガンド
    比較性評価工程変更前後で品質・安全性・有効性に悪影響がないことを評価する考え方

    注意点・例外

    DSPの構成は、抗体医薬、酵素、融合タンパク質、ワクチン、遺伝子治療用ベクター、細胞加工製品などで大きく異なります。この記事では主に抗体医薬・組換えタンパク質を中心に一般化しています。

    また、実際の製造工程設計、バリデーション、ウイルスクリアランス試験、規制当局提出資料の作成には、製品特性・工程特性・規制要件を踏まえた専門的判断が必要です。実務適用時は、CMC、GMP、品質保証、分析、規制対応の専門家に確認が必要です。

    参考文献・出典

    【確実性: 高】

    編集履歴
    2022/11/14,Mr.Harikir
    2026/05/23,更新
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    [ナレッジ] 海外からの帰国 – ファストトラック – Visit Japan Webへの登録と使い方 [2022/11/14]

    はじめに

    海外から帰国する場合,検疫手続きを事前申請することで待ち時間を短縮できるファストトラックというサービスがある.ファストトラックは,これまでMySOS (入国者健康確認アプリ)で行えていたが,2022/11/14以降はVisit Japan Web (VJW) に移行された.VJWは,デジタル庁が管轄している.日本に入国(帰国)する際は,3回のワクチン接種証明書または72時間以内のPCR陰性証明があればよいことになった.

    VJW

    VJWの機能は以下の3つの機能が統合されることになった.

    1. 検疫
    2. 入国審査
    3. 税関申告

    Visit Japan Webについて

    Visit Japan Webのサービスの詳細は以下のリンクを参照してください.

    https://vjw-lp.digital.go.jp/

    ログイン

    実際にVisit Japan Web (VJW) のサービス (ファストトラック)を受けるには,以下のリンク先でアカウントを作り,必要事項の入力・登録を行います.

    https://www.vjw.digital.go.jp/main/#/vjwplo001

    申請の流れ

    帰国前に申請する内容を以下,手順を簡単にまとめた.まず,VJWで自分のアカウントを作成し,帰国に関する必要事項と検疫に関する事項および税関申告事項を入力し登録する.

    1. VJWでアカウントを作成する *2
      • emailアドレス
      • 氏名
      • 住所
      • パスポート
    2. 情報の入力と登録 (フライト到着予定日の6時間前までに)
      • 検疫 : QRコードが発行される
        • パスポート (顔写真ページの画像)
        • 質問票 (渡航先,帰国日)
        • 3回のワクチン接種証明書 (ワクチンの種類と摂取日および摂取証明の画像, 2022/10/11以降)*3
          • または,72時間以内のPCR陰性証明書*3
      • 入国審査 (日本人は登録不要)
      • 税関申告 : QRコードが発行される
        • 紙様式の申告項目と同じ内容

    入国時に使う

    審査が完了するとQRコードが青色に変わる.以下に羽田空港での使用について手順の概要をまとめた.

    1. 日本に到着
    2. スマフォの機内モードをオフ
    3. 検疫手続き : VJWを使用
      • 青色になったQRコード用意
      • パスポートの用意
      • 確認カードの受領
      • QRコード,パスポートの確認を受ける
      • 健康カードの受領
    4. 入国審査 : 日本人は簡略化
      • パスポートと確認カードを見せる
    5. (預け荷物受取り場所)*1
    6. 税関申告 : 電子申請用の専用ゲート
      • 専用QRコード
      • パスポート
      • 顔写真の撮影

    *1 : 海外旅行前に要確認 MySOSのファストトラック機能が廃止、Visit Japan Webでの手続きをレポート (2022/11/13) – TRAICY –

    https://www.traicy.com/posts/20221113254876/

    *2 :「MySOS」を統合したオンライン入国審査「Visit Japan Web」11月から運用 (2022/11/07)

    https://usfl.com/2022/11/post/134025

    *3 : 台湾解禁!やっぱり近くて行きやすい、実際の出入国体験レポート 2022年秋 (2022/11/14)

    https://flyteam.jp/news/article/137960

    編集履歴

    2022/11/14, Mr. Harikiri

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  • [ナレッジ] ふるさと納税/確定申告/やってみる – 楽天 [2022/11/13]

    [ナレッジ] ふるさと納税/確定申告/やってみる – 楽天 [2022/11/13]

    はじめに

    ふるさと納税を初めてするにあたり,その手順をまとめてみました.定年まじかに退職/転職して地元の市町村から遠くはなれて現在居住地は,住民票を移していません.法的には問題ないのですが,居住地では行政サービスをうけているのに納税していないことは心苦しく思っていました.生活も安定してきたので,ふるさと納税することにしました.居住している市町村の返礼品を頂くことにしました.

    まずは手順を調べる

    1. ふるさと納税の代行サイト

    ふるさと納税するには,その代行業者となるサイトを調べました.沢山のサイトがあるようです(*1).例えば,「楽天」,「さとふる」,「ふるさとチョイス」,「ふるなび」などなど.自分にとって購入しやすいサイトを選びました.

    (*1) 徹底比較!2022年ふるさと納税サイトおすすめベスト17を発表(10秒診断つき)(2022/11/13 調査 by Mr.Harikiri)

    https://furu-sato.com/recommend_site

    2. 控除限度額を調べる

    ふるさと納税とは,寄附金の額が,住民税および所得から一定額について控除できることを利用した納税制度なので,控除限度額が存在します.すべての納税をふるさと納税にすることはできません.自己負担が\2,000に収まる正確な額は,寄附翌年1から2月に住まう市町村に問い合わせする必要があります.以下のリンクには,その限度となる寄附のおうよその額が記載されているので参考になります (*2).

    (*2) : ふるさと納税の控除上限額(限度額)がわかるシミュレーション&早見表 (2022/11/13 調査 by Mr.Harikiri)

    https://www.satofull.jp/static/calculation01.php?utm_source=google&utm_medium=cpc&utm_content=text&utm_campaign=Google_normal_X&gclid=Cj0KCQiApb2bBhDYARIsAChHC9sMkaH_nnpQxL-5e-ntAydTHrIKJoRA-mrfirFSdT5jVum81U7JYq8aAv4AEALw_wcB

    具体的な手順

    寄附の具体的な手順について以下にしましました(*3).

    1. 寄附したい自治体および返礼品を決める
    2. 自治体に寄付を申し込む
    3. お礼の返礼品を受け取る(受け取り期日・時間の指定はできないことが多い)
    4. 「寄附金受領証明書」を受け取る(返礼品と同時や別送付などいろいろあり)
      • 楽天ふるさと納税での寄付を1つの電子データにまとめた「寄附金控除に関する証明書」は,確定申告での利用が可能(*4)
    5. 税金の控除を受ける : 以下の2種類の方法があります.
      • ワンストップ納税制度 (利用条件(*3)を満たし,且つ,寄付先自治体への特例制度申請が必要)
      • 確定申告

    (*3) : ふるさと納税の流れ – ふるなび –

    (1)ふるさと納税以外の確定申告がないこと,および,(2)寄付先が5自治体以内 (寄附回数は何度でも可能)であること

    https://furunavi.jp/flow.aspx?utm_source=google&utm_medium=cpc&utm_campaign=scheme_comic&gclid=Cj0KCQiApb2bBhDYARIsAChHC9tKkoi2UQkXogfAyGrvaV06gGm3fajdMUTs-vtfsesz7QPlu-K4u0QaAjAREALw_wcB&gclsrc=aw.ds

    (*4) : 「寄附金控除に対する証明書」とは? – 楽天 –

    確定申告の仕方について説明があります.また,楽天が取りまとめてくれる「寄附金控除に関する証明書」の申請サイト(証明書電子発行申請ページ)もここから飛べます.

    「マイポータル」を使用するとより簡単に申請できる.

    1. e-私書箱
    2. XML ファイルによる電子データの提供
    3. 楽天会員で利用できる
    4. 本サービスは、Webサービスにて提供される

    証明書発行の申請の仕方

    1. 楽天マイページにログイン
    2. 寄付年の選択
    3. 会員情報の確認(初回)
    4. ご利用規約の確認と同意
    5. 1~3営業日後、通知メールが届く
    6. マイページにて電子データとして取得

    (2022/02/01制定)

    https://event.rakuten.co.jp/furusato/guide/final-return/

    編集履歴

    2022/11/13, Mr. Harikiri

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