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はじめに
バイオロジクス(バイオ医薬品)の製造には、一般的に動物細胞が宿主として用いられている。特にCHO細胞(チャイニーズハムスターの卵胞細胞)が使用されることが多い。本培養過程で、細胞内でコードした組換え遺伝子により、目的のタンパク質が生産される。ここでは、一般的な抗体医薬を前提に考える。
培養条件の違いにより、細胞の代謝は微妙に異なることでも、mRNAから翻訳されたタンパク質の翻訳後修飾としての糖化は異なってくる。バイオシミラー開発では腕の見せ所となるし、商用生産では、いかに同等の糖鎖修飾となるロバストな培養条件の設定が必要である。
また、培養過程で細胞の生存率の低下は、産生された抗体の分解を誘発し、収量低下の原因となることも考慮する必要がある。
以上、いずれも細胞内の酵素に起因している。
グルコシル化
Creative Biolabs社のHigh-Affi™テクノロジーを使用したグリコシル化特異的抗体産生サービスのサイトから、蛋白質に対する生体内での糖化についての説明をまとめた。サイトのページの背景には、美しい抗体(Antibody)の立体構造図があるので、そちらもどうぞ見てください。
その前に,クルコシル化について一般情報を以下に確認します.
- グルコシル化とは,炭水化物が,別の分子のヒドロキシル基またはその他の官能基に結合する反応.特に,グリカンをタンパク質または有機分子に結合させる酵素的プロセスを指す
- 非酵素的の場合もある
- タンパク質の翻訳後修飾が基本であるが,同時翻訳もある
- グリカンは,細胞膜,分泌タンパク質において構造的・機能的な役割を果たす
- タンパク質は,粗面小胞体(ER)で合成され酵素により部位特異的にグリコシル化を受け,タンパク質のリフォールディングにおける品質管理チェックポイントを仲介しています
- 一部のタンパク質では,グリコシル化されていないと正しく折りたたまれません.例えば,特定のアスパラギン残基のアミド窒素で結合したオリゴ糖を含まないと安定化しません
- 溶解度が高いグリカンによる物理安定化効果の可能性があります
- グリコシル化によりレクチンを介した細胞間接着に関与します
- ウイルスのエンベロープにおいては,免疫系から逃れることに使われます.例えばヒト免疫不全ウイルスのエンベロープの高密度グリカンシールドがそれです.
Creative Biolabs社のHigh-Affi™テクノロジーを使用したグリ
https://www.creative-biolabs.com/glycosylation-specific-antibody-production-services.html?gclid=cjwkcaia1uhsbrbueiwakbctzuoaxgfot08zradpljk9vs9yuqyslqv3w8a7iqg6_x-sbb6mkektlbocvdmqavd_bwe
グリコシル化は、酸素を要しない糖化とは違い、酵素による部位特異的な反応であり、(1)酵素グリコシルトランスフェラーゼと(2)グリコシダーゼがこの反応を生じさせる酵素です。
5つのカテゴリ
修飾されたアミノ酸の種類と糖鎖の特性に基づいて、グリコシル化は次の5つのカテゴリに分類できます。
いずれの反応も細胞内の小胞体(Endoplasmic Riticulum: ER)とゴルジ体(Golgi apparatus or Golgi body: Golgi)を順次、蛋白質が移動しながら糖付加反応が進む。
1) N-linked glycosylation
(N-結合型グリコシル化; N-glycosyl)
タンパク質のアスパラギン(Asn)またはアルギニン(Arg)のアミド窒素原子へのオリゴ糖分子の付加です。
- N-glycosylでは、AsnとArgに糖が以下のように付加されます。リン酸ドリコールという脂質の関与が必要(wikipedia)
- Asnでは、以下の4種の糖が付加
- Argでは、Glcが付加
糖鎖の略号
動物と酵母では、以下の10種類
- グルコース(Glc)
- ガラクトース(Gal)
- マンノース(Man)
- N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)
- N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)
- フコース(Fuc)
- シアル酸(Sia、NeuAc)
- キシロース(Xyl)
- グルクロン酸(GlcA)
- イズロン酸(IdoA)
植物の特有の糖鎖
- ラムノース(Rha)
- アラビノース(Ara)
- ガラクツロン酸(GalA)
- アピオース(Api)など
糖鎖って? – 糖鎖医工学研究センター
https://unit.aist.go.jp/brd/jp/GTRC/ci/rcmg/jp/what%27s_tousa/what%27s_tousa1.html
下図には、IgG1のFc領域に共通してあるAsnに対して付加される糖鎖の模式図を示します。
Influence of N-glycosylation on effector functions and thermal stability of glycoengineered IgG1 monoclonal antibody with homogeneous glycoforms, 2019
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6380427/
2) O-linked glycosylation
(O-結合型グリコシル化; O-glycosyl)
単糖またはオリゴ糖分子がタンパク質のアミノ酸残基の酸素原子に結合。 この反応は、真核生物のゴルジ体で起こり、古細菌や細菌でも見られる。 これは、対応するグリコシルトランスフェラーゼによって転移されたセリン(Ser)またはスレオニン(Thr)残基へのN-アセチルガラクトサミン、フコース、グルコースまたはマンノースの付加から始まります。次に、炭水化物鎖が伸び、続いて他の炭水化物(ガラクトースやシアル酸など)が続きます。
- O-glycosylでは、以下のように付加されます。
- Serに付加される糖鎖
- Thrに付加される糖鎖
- Tyrに付加される糖鎖
- Hylに付加される糖鎖
- Ser/Thrに付加される糖鎖
- GlcNAc
- GalNAc
- Gal
- Man
- Fuc
- Pse
- DIAcTridH
3) Phospho-serine glycosylation
(ホスホセリンのグリコシル化; P-glycosyl)
ホスホセリンのグリコシル化は、ホスホジエステル結合を介した糖のタンパク質への付加。 GlcNAc、キシロース、マンノース、フコースがこの種のグリコシル化に関与している。
- Serに付加される糖鎖
- GlcNAc-1-P
- Man-1-P
- Fuc-1-P
- Xyl-1-P
4) C-Mannosylation
(C-マンノシル化; C-glycosl)
C-マンノシル化とは、C-C結合を介してシーケンスW-X-X-W(Wはトリプトファンを示し、Xは任意のアミノ酸)の最初のトリプトファン残基C-2にマンノース糖を付加することを指します。 これまでのところ、この結合は、RNase2、トロンボスポンジン、インターロイキン-12、プロペルジンなどの哺乳類タンパク質で発見されている。
5) Glypiation(GPI)
グリピエーション(GPI)
グリピエーション(GPI)は、タンパク質がグリカン鎖を介して脂質アンカーに結合する特殊な形態のグリコシル化です。 この種のグリコシル化は、トリパノソームやThy-1抗原などの重要な細胞表面糖タンパク質に広く分布している。
ERとGolgiによる修飾過程
ERとGolriの詳細な図は、以下の文献を参照
Role of Chinese hamster ovary central carbon metabolism in controlling the quality of secreted biotherapeutic proteins
細胞代謝によるタンパク質の還元分解の原理
GlucoseからPyruvateまでの代謝では、NADPHが合成されるが、その反応には、Thioredoxin Systemが関わっておいる。CHO細胞の培養によるバイオロジクスの本培養において、細胞生存率が著しく低下した場合、以下の原因により産生タンパク質の還元が生じる結果、SS結合が切断されて低分子化が見られることがある。
- 細胞死による細胞質の各種酵素がの培養液中に漏出
- 漏出した酵素には、Thioredoxinが存在
- Thioredoxinにより、抗体の分子内SS結合が切断
- その結果、HHL, HH, HL, H, L (H: Heavy chain, L: Light chain)で表される分子が生じる
GlucoseからPyruvateまでの代謝
GlucoseからPyruvateまでの代謝系には、(1) ED, (2) EMP および (3) PPPの3つが存在する。
NADPH-generating systems in bacteria and archaea 2015)
Glucose→Glucose-6-P→Fructose-6P→Glyceraldehyde-3-P→Pyruvateまでの反応には、3つのパスウェイがある。グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)および6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(6PGDH)によるNADPHの生成。 実線と破線は、それぞれ単一反応と集中反応を示します。
経路の略語
ED、Entner–Doudoroff経路(緑色)
EMP、Embden–Meyerhof–Parnas経路(青色)
PPP、ペントースリン酸経路(酸化相は赤、非酸化相は黄色)。
GAPデヒドロゲナーゼによるNADPHの生成。 実線の矢印と破線の矢印は、それぞれ単一の酵素反応と集中定数の酵素反応を表しています。 代謝物(通常のテキスト)および酵素(太字)の略語:GAP、グリセルアルデヒド3-リン酸; 1,3-BPG、1,3-ビスホスホグリセリン酸; 3-PG、3-ホスホグリセリン酸; GAPOR、GAP:フェレドキシンオキシドレダクターゼ; GAPDH、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ; GAPN、非リン酸化GAPDH; PGK、ホスホグリセリン酸キナーゼ。
https://europepmc.org/article/pmc/pmc4518329
Pentose Phosphate Pathway
Pentose Phosphate Pathway (PPP) には、Thioredoxinも関わっている。PPPは、細胞がGlucoseをエネルギー原として使っている代謝系は3つある。PPPは、その内の1つである。
Thioredoxin System
Physiological functions of thioredoxin and thioredoxin reductase (2001)
チオレドキシン系のオキシドレダクターゼ活性のスキーム。 チオレドキシンレダクターゼ(TrxR)とNADPHによる、酸化型チオレドキシン(Trx-S2)の活性部位ジスルフィドの還元型チオレドキシン(Trx-(SH)2)のジチオールへの還元を模式的に示す。 Trx-(SH)2は、その一般的なオキシドレダクターゼ活性によってタンパク質のジスルフィドを還元し、Trx-S2を生成する。 チオレドキシンレダクターゼは、E.coliチオレドキシンレダクターゼによって還元されるNrdHレドキシンなどの相同チオレドキシン以外の基質、または哺乳類のチオレドキシンレダクターゼによって直接還元されるチオレドキシンに加えて多くの基質を持っている可能性がある。
Thioredoxin System : thioredoxin: チオレドキシン、thioredoxin reductase: チオレドキシンレダクターゼおよびNADPHの反応系を指す。チオレドキシンシステムは、古細菌から人に至るまで存在する。ジチオール/ジスルフィド活性部位(CGPC)を持つチオレドキシンは、主要な細胞タンパク質ジスルフィドレダクターゼであり、リボヌクレオチドレダクターゼ、チオレドキシンペルオキシダーゼ(ペルオキシレドキシン)、およびメチオニンスルホキシドレダクターゼなどの酵素の電子供与体としても機能する気は年。 Glutaredoxins: グルタレドキシンは、チオレドキシンの機能と重複し、グルタチオンレダクターゼを介してNADPHからの電子を使用して、グルタチオンジスルフィド酸化還元を触媒します。 チオレドキシンアイソフォームはほとんどの生物に存在し、ミトコンドリアには別個のチオレドキシンシステムがあります。 植物には葉緑体チオレドキシンがあり、これはフェレドキシン-チオレドキシンレダクターゼを介して光によって光合成酵素を調節します。 チオレドキシンは、タンパク質機能の酸化還元調節とチオール酸化還元制御を介したシグナル伝達に重要です。 NF-κBやRef-1依存性AP1を含む転写因子の数は増え続けており、DNA結合のためにチオレドキシンの還元が必要です。 細胞質ゾルの哺乳類チオレドキシンは、胎児に致死的であり、酸化ストレスに対する防御、成長およびアポトーシスの制御において多くの機能を持っていますが、分泌され、コサイトカインおよびケモカイン活性も持っています。 チオレドキシンレダクターゼは、細菌、真菌、植物に含まれる特定の二量体70 kDaフラボタンパク質であり、酸化還元活性部位がジスルフィド/ジチオールです。 対照的に、高等真核生物のチオレドキシンレダクターゼはより大きく(112–130 kDa)、幅広い基質特異性を持つセレン依存性二量体フラボタンパク質であり、ヒドロペルオキシド、ビタミンC、亜セレン酸塩などの非二硫化物基質も還元します。 すべての哺乳類チオレドキシンレダクターゼアイソザイムはグルタチオンレダクターゼと相同であり、システイン-セレノシステイン配列がレドックス活性セレネニルスルフィド/セレノールチオール活性部位を形成する保存されたC末端伸長を含み、ゴールドチオグルコース(オーロチオグルコース)および他の臨床的に使用される薬剤によって阻害されます。
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1432-1327.2000.01701.x
Glycosylation
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Glycosylatiion
編集履歴
2020/10/31 追記:還元酵素によるタンパク質分解について
2021/01/20 追記:wikepediaより,一般情報をまとめた