はじめに
AQL(Acceptance Quality Limit:合格品質限界)は、ロット(受入単位)を「抜取り検査」で合否判定するための指標で、JIS Z 9015-1(ISO 2859-1系)のAQL指標型抜取検査方式として体系化されています。
AQLは“この品質なら高い確率で合格する”ようにサンプリング計画(抜取り数n、合格判定数Ac、不合格判定数Re)を設計する考え方で、全数検査より時間・コストを抑えつつ、一定のリスク水準で受入判定を行えます。実施手順は概ね次の通りです。まずロットサイズを確認し、検査水準(Level I/II/III)を選びます。検査水準は判別力(=どの程度の検査量で見分けたいか)を決める入口で、ロットサイズと組み合わせてサンプルサイズコードレターを引き、そこから抜取り数nが決まります。
次にAQL値(例:0.65、1.0、1.25、2.5等)を欠点分類ごとに設定し、さらに検査の厳しさ(なみ/きつい/ゆるい)で参照する表を確定します。表の交点からnとAc/Reを確定したら、ロットから無作為にn個を抜き取り検査し、不適合品数dを数えます。dがAc以下なら合格、Re以上なら不合格という、ルールに基づくロット判定です。
医薬品の品質管理では、原薬や資材の受入検査、工程内の良品抜取確認、外観検査のサンプリングなどにAQLの考え方が応用され得ます。
ただし注意点も重要です。抜取り検査は“見ないものが残る”可能性を本質的に含むため、生命・安全に重大影響を与える欠点(例:金属・ガラス等の危険な異物)をAQLだけで担保する設計は慎重であるべきです。実務では、工程での混入防止・検出(ふるい、フィルタ、金属検出、外観自動検査等)や逸脱/CAPAと組み合わせ、「重大欠点は工程でゼロ化(検出・除去の設計)+異常時は逸脱管理」「外観品質のばらつきはAQLで受入判定」といった役割分担が有効です。
実際に製薬企業事例でも、金属様異物の工程管理でJIS Z 9015-1のAQL指標型抜取を位置づけつつ、検出閾値以上は100%除去や逸脱管理に接続する考え方が示されています。
手順
AQL(JIS Z 9015-1 / ISO 2859-1系)の抜取り検査は、(1)検査条件を決めて表から「n・Ac・Re」を確定し、(2)ロットから無作為にn個抜いて検査し、(3)dをAc/Reと比較して合否判定する――という“設計→実施→判定→次ロット運用”の流れです。AQLはAQL列、検査水準はコードレター(→n)に関係し、検査の厳しさ(なみ/きつい/ゆるい)は参照表(Normal/Tightened/Reduced)に関係します。
Step 0:前提(検査の単位・数え方)を定義する
目的・意義:後の数値(n, Ac, Re, d)が“同じ意味”で使えるようにする(ここが曖昧だと、表で決めたAc/Reと現場のdが一致しません)。
関連:ロット定義、検査単位、不適合の定義、欠点分類(重大/重/軽微)。
Substep / 決めるもの
- 0-1 ロットの定義(例:同一条件の入荷単位)
- 0-2 検査単位(例:1バイアル=1単位)
- 0-3 「d」を何として数えるか(不適合“品”数か、欠点“数”か)
このステップが規定するもの:以後の d(不良数) の意味と、合否判定の一貫性。
Step 1:方式(単回 / 二回 / 多回)を選ぶ
目的・意義:判定が「一回で確定」か「追加サンプルで確定」かを決め、使う表体系を確定する。
関連:工程の安定性、検査コスト、判定の迅速性。
Substep / 決めるもの
- 1-1 単回抜取(single)か、二回/多回かを選定
このステップが規定するもの:判定ロジック(途中で追加サンプルがあるか等)。
Step 2:AQL(欠点分類ごと)を設定する
目的・意義:このシステムはAQLで索引化されており、AQLが合否境界(Ac/Re)を決める“軸”になる。
関連:欠点分類(重大/重/軽微)、製品リスク、顧客要求、工程能力。
Substep / 決めるもの
- 2-1 欠点分類(重大/重/軽微など)
- 2-2 各分類のAQL値(例:0.65, 1.0, 1.25, 2.5…)
このステップが規定するもの:主抜取表で参照する AQL列(→Ac/Reが変わる)。
Step 3:検査の厳しさ(なみ/きつい/ゆるい)とスイッチング運用を決める
目的・意義:品質状況に応じて検査を強化/緩和するために、Normal/Tightened/Reducedのどの表を使うかを確定する(または、ルールにより自動で遷移)。
関連:連続ロットの合否実績、工程の安定性、検査負荷。
Substep / 決めるもの
- 3-1 開始モード(通常は“なみ”)
- 3-2 遷移ルール(例:不合格が続けば“きつい”へ、安定なら“ゆるい”へ等)
このステップが規定するもの:参照する 表(Normal/Tightened/Reduced)。
Step 4:検査水準(Level I / II / III など)を決める
目的・意義:**判別力(=サンプル数の規模)**を選ぶ“つまみ”。精度を上げればnは増え、下げればnは減る。
関連:検査コスト、許容できるサンプリングリスク、工程能力。
Substep / 決めるもの
- 4-1 一般検査水準:I/II/III(通常はII)
このステップが規定するもの:次ステップで決める サンプルサイズコードレター の入口。
Step 5:ロットサイズ × 検査水準 → サンプルサイズコードレターを引く
目的・意義:主抜取表を引くためのキー(コードレター)を確定する。
関連:ロットサイズ、検査水準。
Substep / 決めるもの
- 5-1 ロットサイズ範囲を確定
- 5-2 対応表から コードレター(例:L, M…) を取得
このステップが規定するもの:次ステップで n・Ac・Re を引くためのキー。
Step 6:主抜取表から「n(抜取り数)」と「Ac/Re(合否境界)」を確定する(設計確定点)
目的・意義:実施すべき検査量と判定境界を事前に固定して、恣意性なくロット合否を決める。
関連:AQL、コードレター、厳しさ(Normal/Tightened/Reduced)。
Substep / 決めるもの
- 6-1 選んだモード(なみ/きつい/ゆるい)に対応する表を選ぶ
- 6-2 コードレター行 × AQL列の交点から Ac/Re を得る
- 6-3 同じ行の n(抜取り数) を得る(表の右側などに記載)
このステップが規定するもの: - n:検査する個数
- Ac:dがこの数以下なら合格
- Re:dがこの数以上なら不合格
Step 7:ロットから無作為に n 個を抜き取る(サンプリング)
目的・意義:統計的前提(代表性)を満たし、偏りでdが歪むのを防ぐ。
関連:サンプリング手順SOP、保管/輸送単位、層別(必要なら)。
Substep / 決めるもの
- 7-1 無作為化方法(どこから・どう抽出するか)
- 7-2 抜取り記録(トレーサビリティ)
このステップが規定するもの:検査結果の“妥当性”(バイアス抑制)。
Step 8:n個を検査し、d(不良数)を数える
目的・意義:判定入力値 d を得る(dは観測値)。
関連:検査方法(目視/機器)、判定基準、検査員教育。
Substep / 決めるもの
- 8-1 n個を検査
- 8-2 **d(見つかった不適合品数)**をカウント
このステップが規定するもの:合否判定の入力値 d。
Step 9:判定(d と Ac/Re を比較)→ ロット処置を実行
目的・意義:ロット合否を恣意なく確定し、出荷/隔離/調査などの処置に直結させる。
関連:受入判定、逸脱処理、CAPA(医薬品なら特に)。
Substep / 決めるもの
- 9-1 d ≤ Ac → 合格(受入/出荷など)
- 9-2 d ≥ Re → 不合格(隔離・調査・是正など)
このステップが規定するもの:ロットの受入可否。
Step 10:スイッチング(次ロット以降)と改善(不合格時)
目的・意義:単発の合否で終わらせず、品質状況に応じて検査の厳しさを調整し、原因是正につなげる。
関連:なみ/きつい/ゆるい遷移、工程改善、供給者管理。
Substep / 決めるもの
- 10-1 連続ロットの実績を評価
- 10-2 ルールに従いモード遷移(Normal↔Tightened↔Reduced)
- 10-3 不合格なら原因究明・是正(必要なら受入条件見直し)
このステップが規定するもの:次ロット以降の参照表と検査負荷(実運用の安定化)。
【注意点・例外】
- “Levelを決めたらnが決まる”の正確な言い方:Level単独ではなく、ロットサイズと組み合わせてコードレターを決め、そのコードレターからnが決まる、です。
- AQLを決めないとAc/Reは決まりません(同じnでもAQL列が違えばAc/Reが変わる)。
- 医薬品の異物のような高リスク欠点では、AQL抜取りだけに依存する設計が妥当かは個別判断です。SOP化や欠点分類・AQL設定は専門家に確認が必要です(一般的に抜取りは取りこぼし確率を持つため)。
【出典】
- ISO 2859-1(ISO公式):AQLで索引化された属性(計数)受入抜取検査システムである旨。
- ISO 2859-1:1999 PDF:AQLとコードレターで、Normal/Tightened/Reduced の表から計画(sampling plan)を得る旨。
- JSAプレビュー(JIS Z 9015-1 英文):Normal→Reducedへの切替え等、スイッチングに関する記載(改訂点含む)。
- QTEC:コードレターとAQLの交点から、抜取り数・合格判定数・不合格判定数を求める/検査水準・厳しさの説明。
- JIS Z 9015-1 解説掲載(kikakurui):JIS Z 9015-1が「ロットごとの検査に対するAQL指標型」であること等。
- GMP Platform:JIS Z 9015-1のAQL抜取検査手順を箇条書きで説明(AQL設定→厳しさ→ロット/水準→コード→n/Ac/Re→判定)。
- T電子工業 解説:ロット×水準→コード→n、AQL交点でAc/Re、判定例。
用語一覧表
| 用語・記号 | 日本語/英語 | 意味(何を表すか) | 関連するステップ | 何を規定するか(実務上の役割) |
|---|---|---|---|---|
| AQL | 合格品質限界 / Acceptance Quality Limit | 抜取検査方式を索引する品質指標(例:%不適合品率、または100単位当たり不適合数) | AQL設定(欠点分類ごと) | 主抜取表で参照するAQL列(→Ac/Reが変わる) |
| ロット(Lot) | ロット / lot | まとめて受入判定する製品群(検査対象の単位) | 前提定義 | 抜取の母集団と、合否判定の対象単位 |
| ロットサイズ | lot size | ロット内の個数(例:20,000バイアル) | 前提定義 → コードレター決定 | コードレターを決める入力(→nに影響) |
| サンプル(Sample) | サンプル / sample | ロットから取り出した1組(情報を得るための抽出集合) | 抜取り(サンプリング) | 検査対象そのもの |
| n | 抜取り数 / sample size | サンプルに含める検査個数(何個検査するか) | コードレター×表引き | 実際に検査する個数(検査負荷・判別力) |
| Ac | 合格判定数 / acceptance number | サンプル内の不適合品数がこの数以下なら合格 | 主抜取表の交点 | 合格の境界(許容される最大不適合品数) |
| Re | 不合格判定数 / rejection number | サンプル内の不適合品数がこの数以上なら不合格 | 主抜取表の交点 | 不合格の境界(これ以上でロット不合格) |
| d | 不良数(不適合品数) / number found | n個を検査して実際に見つかった不適合品の個数(観測値) | 検査・カウント | 判定入力値(dをAc/Reと比較して合否決定) |
| 欠点分類 | 重大/重/軽微(例) | 重要度に応じてAQL等を分けるための分類(SOP/要求品質) | AQL設定前提 | AQL値や検査設計(どれだけ厳しく見るか)の根拠になる(※運用設計領域) |
| 検査水準(Inspection level) | Level I/II/III、S-1〜S-4 | ロットサイズと組み合わせてコードレターを決める“判別力(検査量)の選択” | 検査水準決定 | nの大きさに影響(検査量=判別力の調整) |
| サンプルサイズコードレター | code letter | ロットサイズ×検査水準から得る表引きキー(例:H, M等) | コードレター決定 | 主抜取表でnとAc/Reを引くためのキー |
| 検査の厳しさ(Severity) | なみ/きつい/ゆるい(Normal/Tightened/Reduced) | 連続ロットの実績等に応じ、参照する計画(表)を切替える運用モード | 厳しさ決定・スイッチング | 同じAQL・コードレターでも、適用する計画(Ac/Re等)が変わる |
| スイッチングルール | switching rules | なみ⇄きつい⇄ゆるいへ切替えるためのルール(連続ロット前提) | 次ロット運用 | 次ロット以降の検査モード(厳しさ)を規定 |
| 抜取方式(Sampling plan) | 抜取方式 / sampling plan | 使用するサンプルサイズと合否基準(Ac/Re等)の組合せ | 表引きで確定 | 「どう抜いて、どう判定するか」の設計値(n・Ac/Re…) |
| 単回抜取 | single sampling plan | 1回のサンプルで合否を決める計画(nとAc/Reの組) | 方式選択 | 途中追加サンプルなし(基本はn個検査→判定) |
| 二回抜取 | double sampling plan | 2段階サンプル(第1回と合算)で合否を決める計画 | 方式選択 | 途中判定(追加サンプル)があり得る |
| 不適合(品) | nonconforming unit | 要求を満たさない“品”(dとして数える対象) | 前提定義 | dの数え方を規定(SOPで明確化が必要) |
| 不適合数 | nonconformities per 100 units(等) | 欠点“個数”を数える(%不適合品率とは別軸で表現される場合あり) | 前提定義/AQL設定 | AQLの単位(%不適合品率 or 100単位当たり不適合数)に関与 |
2026/03/03, Mr.Harikiri

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