このFAQは、バイオロジクスについて初学者を対象にしています。バイオロジクスは、低分子医薬品と異なり、直接的な合成には関わらず、生物に合成させる技術、すなわち、遺伝子組換え技術の使用を基本としています。開発に要する費用は、低分子と比較して1桁高額です。世界の医薬品は、バイオロジクが売上のほとんどを占めています。低分子医薬品は無くなることはありませんが、バイオロジクスは、今後も遺伝子治療のように、モダリティを変えながら拡大していくことは誰も否定はしないでしょう。
バイオロジクス
Refoldingとは何ですか
Refoldingは、大腸菌によるバイオロジクス製造に欠かせない技術
タンパク質のRefolding技術は、その組換え体の生産宿主としてE.coli(大腸菌)を使用する場合、必須の技術となります。
大腸菌の菌体内で合成されたタンパク質は、動物細胞の場合のように、フォールディングがうまく行きません。立体構造がネイティブな構造になり難いのです。フォールディングの容易性は、分子量の大きさと、ほとんどとレイドオフの関係にあります。大きな分子量のタンパク質であるほどフォールディングがうまく行かず、立体構造があるべき姿にならないという、折り畳みのミスが各所で生じます。それは、それぞれのタンパク質ドメインによる相互干渉によるものと考えられますが、SS結合のミス結合も同時に起きやすいことも大きくてな理由の一つです。
フォールでイングの順序
タンパク質のフォールディングにおいて、まず重要なことは、分子内のSS結合は、立体構造が安定してから、最後に結ばれるのが正しい順序です。例えば、早々に、明後日(あさって)のペアでのシステイン同士が結合してSS結合を形成してしまうと、それは、もう正しい立体構造にはなり得ません。最後の最後に正しい立体構造になってから、その後に隣り合うシステイン同士がSS結合を形成することで、タンパク質は安定な物質になります。
編集履歴
2021/02/13 Mr.HARIKIR
バイオロジクスにおけるイオン交換クロマトの原理
バイオロジクスの精製におけるイオン交換の原理
イオン交換クロマトグラフィは、タンパク質の精製の基本です。特に陰イオン交換クロマトグラフィでは、発熱性物質(endotoxin)やウイルスの除去に使われています。抗体医薬品では、重合体(aggregates)の低減化に用いられます。
編集履歴
2021/02/13 Mr.HARIKIR
タンパク質の沈殿化による精製とは?
タンパク質の疎水性という性質を利用して、添加剤の種類と濃度、およびpHを調整することで、沈殿になるものと上清に可溶性として残るものとに分離することで、純度を高める精製の手法です。タンパク質と核酸の分離精製、異種のタンパク質の分離精製、などに使うことが出来ます。ただし、分離能力はそれほど高くありません。
以下の基礎知識を活用します。
- 溶液のpHを下げると疎水性が高まる
- NaClやクエン酸Naなど、塩濃度を高めると疎水性が高まる
- ロダン酸Na、尿素、グアニジンなどを添加する疎水性は低下する
タンパク質の精製を始める前に、そのタンパク質について考えること
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はじめに
まず、精製品として取得したいタンパク質を精製するには、そのタンパク質自体の情報を取得します。分子量、アミノ酸配列、精製機材としてのレジンとして特異的なレジンがあるか、そして、3D立体構造を知ることは、精製するイマジネーションが湧いてきます。
- 分子量
- アミノ酸配列情報
- 特異的な精製は可能か
- 3D立体構造
分子量はどれくらいか
精製しようとしているタンパク質の物性について知ることから始めます。
100kDaを超えると大きい分子と認識します。もしもRefoldingが必要な場合、このような高分子でのRefoldingは期待薄です。できたとしても、その歩留まりは非常に低いはずです。
Refoldingが可能なタンパク質の分子量は、一般的に30kDa以下です。それ以上になると、分子量の増加とともにRefolding効率が低下してきます。
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アミノ酸配列情報
等電点はどれくらいか
イオン交換体の精製を考える場合に、その等電点を知ることは、陰イオン交換体を使用できるのか、陽イオン交換体を使用できるのか、まずは、大雑把に判断するために必要な情報です。
ウイルスや核酸は、負電荷が強いので、陰イオン交換体による吸着/溶出法が使用できます。IgGの場合、そのpIは、中性から塩基性であることが多いので、その場合には、その抗体のpIを超えないpHのバッファー組成で、陰イオン交換クロマトグラフィを実施できます。IgGはパススルーしますが、その他、pIが低い不純物質は、吸着するので精製されるわけです。
疎水性はどれくらいか
分子量が大きくなるにつれて、疎水性は一般的に高くなります。大きな分子であれば疏水クロマトが使用できるでしょう。IgGの分子量は、150kDaなので、疎水クロマトが使用できます。
疎水性が強ければ、塩析による沈殿化も容易です。容易ということは、沈殿化によるロスに注意を払う必要もあるということです。
ただ、疎水クロマトでは、疎水レジンであっても吸着容量がイオン交換クロマトグラフィと比較して低くなるし、高分子であるほど吸着容量は低下することを考慮する必要があります。
特異的な精製は使用可能か
アフィニティ精製
抗体の精製のようにProtein Aレジンによる精製が可能なら使用すれば、初期精製の苦労を回避できます。文明の力は使いましょう。そのために、試薬メーカーが開発してくれています。
AAVのアフィニティ・レジンも開発されています。使用しない手はないでしょう。
血液凝固系のタンパク質は、もっぱらヘパリン親和性を持っています。ヘパリン・レジンを使えるかも知れません。
精製タグによる精製
ラボでの精製をしやすくするために、N末またはC末にHistidine x 6を付加して、Niカラムで精製が可能にデザインすることがあります。Imidazoleの濃度で溶出できますが、おそらくHistidineでも溶出は可能なはずです。一般的には、Histidineで溶出することはないようです。私は、見たことがありません。
最適なImidazole濃度は、必要十分な濃度を知ることが重要です。薄すぎると回収率が低下し、高すぎると不純物が多くなりがちです。ただし、この工程は、キャプチャリングなので、後の精製工程の能力が高ければ、Imidazole濃度については、それほど厳密な設定は必要ないでしょう。
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編集履歴
2020/11/22 Harikiri(Mr) 2021/05/02
核酸とは何ですか?
タンパク質精製における核酸は不純物に他ならない。UV測定においては、A260nmに最大吸収するため、A260とA280の比で核酸の除去状況をある程度判断することができる。遺伝子組換えCHO細胞で抗体を産生させた場合、細胞由来の核酸が不純物として混入してくる。これをHost Cell DNAという。しかし、核酸を医薬品するものがある。核酸医薬においては主成分となるが、目的の核酸でない核酸は、もちろん不純物である。タンパク質の精製において、サンプルに核酸が多く含まれていると、酸性pHにすることで濁りが生じる現象を利用して核酸の混入程度を定性的に確認できる。
編集履歴 2020/11/16 Harikiri(Mr)編集開始 2021/02/13 追加 (イオン交換クロマトグラフィの原理) 2021/04/20 追記 (Refoldingとは何ですか)