[低分子医薬品 ] 日本では「空前の薬不足」だそうな [2023/11/13] ID44058

薬不足?

昨年(2022)もそんな報道がありましたが,最近もまた,ニュースを見ていたちら後発医薬品メーカーの不祥事報道がありました.日本で薬が足りないことになっているようです.その理由は,8割以上の割合で使用されているジェネリックメーカー製の医薬品の供給が少なくなっているからです.

ジェネリックの成り立ち

世界でもそうですが日本では,特に低分子医薬品(タンパク質医薬品でない)では顕著ですが,特許が切れた時点でオリジネイターの特許技術を自由に使用できるようになると,ジェネリックメーカーの後発品の製造販売ビジネスが即座に開始されます.バイオロジクスの場合は,技術は低分子医薬品と比較して,もっと複雑であるため,その後発品であるBiosimilarではそうは簡単には行きません.なぜなら,低分子医薬の後発品では,通常,時間とコストがかかる臨床試験が必要ないためだ.

医薬品の特許には,物質特許(Product Patent)と製法特許(Method Patent)があります.物質特許は,その医薬品そのものを物質として権利化できるため,物質自体としての特許権が満了してからでないとジェネリックメーカーが事業を開始することはできません.この部分では,Biosimilarも同じです.

後発品の薬価は,先発品より低い価格にされます.

もしも,製造方法に関する特許(Method patent)が,切れていないのであれば,その製造方法を回避できる方法を開発して作り上げる必要があります.おそらく,オリジネーターが開発した製造方法は,コスト面,効率面などで有意な方法になっているはずなので,ジェネリックメーカーは,製造方法において独自開発の困難に直面すると思われます.

従って,コストがよりかかる方法でしか製造できないという最悪の結果が考えられることです.これが,後々の悪循環の根源です.

コストがかかる具体的な事柄は,以下の例示を考えることができます.

  1. 高価な試薬
  2. 反応経路が複雑
  3. 製造歩留まりが悪い

そうすると,ジェネリック(後発医薬品)メーカーは,以下の問題に直面するであろうと容易に思い付くことができます.

  1. コスト削減の実施により,品質の悪い原材料の使用.
  2. 見落とされる反応経路のモニタリング試験の存在.
  3. 製造要員に対する教育訓練費用の削減,熟練しない作業員による製造の実施.
  4. 最終製品の品質の低下,潜在的な品質低下のリスクの包含.

以上の問題は,互いに影響しあい負のスパイラルで落ち着くところまで落ちてゆきます.到達地点は不祥事であるとの方程式は,完成しつつあると言っていいでしょう.

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問題のポイント?

労働集約的ではもう無理

「易いものをつくる」のだから,投資は必要ないと考えていませんか?

ジェネリック医薬品の思想は悪くありません.

でも現状の体制ではジェネリック医薬品はその使命を果たせないと思います.数年前からジェネリックメーカーの不祥事が続けざまに起きています.収まる気配すらないように思われます.

医薬品を作ることは「簡単ではない」のです.労働力だけで製造を管理し品質を担保することはムリゲーなのです.

思い切って言ってしまえば,「自動化」を眼中の目標に据えて,やり直す必要があると考えます.

即ち,最初に必要なことは,先ずは,投資です.資金力が必要です.「熱い思い」だけではジェネリックメーカーは成り立たないでしょう.「自動化」によって安定性を獲得するまでは.

GMP

いくら後発品であるかといって,GMP基準に従わなくても良い訳ではありません.先発品と同様にGMPに従い,工程管理を確実に積み重ねて,最終製品まで繋げていかなければならないのです.だた異なる点はは,後発品は,安くしか売れないということです.

国内のジェネリックメーカーは,GMP基準の準拠に対して少し緩いように思います.背に腹は代えられないという事情も前述したように理解はできます.でも,企業努力は必要です.それも継続的にです.

品質試験の結果が,「品質や安全性に問題ない」.それは本当にそうなのか,十分な検証なしに判断すべきものではありません.自分たちが設定した品質試験や規格試験に不合格なのであれば,それは何らかの問題が潜んでいる証拠です.GMPに則り原因究明と対策,経過観察も必要です.

担当者のミスは組織の責任

担当者の勘違いによる操作の逸脱は,担当者に選任が帰属されるものてはない.GMPにおいては,先ずは,組織しての「教育訓練」の不足と捉えるべきであるし,それは,SOPの理解が足りていないだろうし,SOPの内容が不十分で理解が困難なのかもしれない.SOPの更新も定期的に実施されていないかもしれない.

改善には資金も時間も必要

ここでは,組織的なソフトな話はしない.それはGMPでは当たり前だからだ.以下は,ハードの話をする.

日本の企業は総じてITや自動化に遅れを取っているため,低コストで製品を作ることに極めて苦慮しています.特に医薬品では顕著です.安易にコストダウンを図るために原材料をターゲットにしてしまいがちです.確かに海外製の原材料は安くて手に入りますが,その分のシワ寄せは,使用するジェネリックメーカにあります.安い原材料ほど,品質の安定性が低いため,時に規格試験を通らないことも多くなるでしょう.そのリスクを会社として取れますか.とれないのであれば,その安い原材料の採用は見送るのが懸命です.それでも安い原材料の使用を決定したのであれば,事前に受入検査という防波堤で確実に阻止する体制を作りましょう.しかし,製品の製造に投入してしまって最終製品が得られた後に,その検査結果が最終製品に対して影響することになれば,製品は最悪の場合,製品廃棄処分になります.そのリスクを取らずして小手先三寸は最悪です.

原材料によりコスト削減効果は絶大ですが,それ以外の方法によるコスト削減についても考える時期に来ています.

品質管理に関して欧米では,新しいIT技術を考案し取り入れています.米国の当局であるFDAは,メーカーが使いそう/使っているソフトウェアを自ら使用して,それを推奨していたりもします.

日本のジェネリックメーカーを立て直すには,先ずは,ITとAutomationの積極的な投資による「自動化」の導入が必要です.新しい技術導入にはお金がかかります.国による補助金が必要です.近時,新型コロナ感染の影響で,バイオ医薬品メーカに対して高額な補助金の公募の募集が複数年続いて実施されました.半導体産業においても「ラピダス」関連に数兆円の補助金の投入が決まりました.

今度は,国内の医薬品ジェネリックメーカーに対して補助金の出番です.その導入により低コストで継続的な安定した製造が可能となるはずです.このままジェネリックメーカーを潰してしまわないために.

導入が必要な要素

コスト削減につながる技術の導入と,その他についてその要素を考えてみました.技術導入は省力化につながります.会社の状況,ステージに応じた導入計画で無理なく進めます.急ぎすぎてもダメですが,まったく進めず停滞することはもってのほかです.

  1. 紙媒体の製造記録を排して電子バッチレコードを導入する.
    • 必要な書類の現場への持ち込み労力の削減.
    • QAによるレビューもリアルタイムでも可能.
    • その他,社内での製造・品質試験・逸脱・変更管理・QA関連なども考慮する.
  2. 工程管理試験には極力人手を排したPATの導入を進める.
    • 「易いもの」を作るからこそPATの導入は必須です.
    • 各種メーカーからPAT用のセンサーは既にラインナップされている.
    • 今すぐにはできなくても将来のQbDとRTRtの可能性も見据える.
  3. 積極的に第三者を活用する風土の醸成.間違いのない情報や新しい情報や技術を知る.
    • ナレッジできていない同業知者の失敗情報の獲得.
    • よりよい会社風土の醸成.
    • 教育訓練に活かす.
  • * PAT : リアルタイムに製造中の品質特性を知るシステム.PATは,RTRtやQbDを可能にするが,PATは自動化そのものであり,製油製品のような連続製造とはいかないまでも,医薬品にも連続製造の恩恵を与えてくれると,筆者は信じている.ジェネリックメーカーでの導入において,PATと呼称する必要は全くなくて,自動化の恩恵を受けるためだけでも,その技術の一旦を活用するという企業戦略に使わしてもらうに過ぎない.

略号

PAT : Process Analitical Technique

QbD : Quality by Design

DoE : Design of Experiments

RTRt : Real Time Release Test

Processanalyticaltechnique(PAT) miniaturizationformonoclonalantibody aggregatedetectionincontinuous downstreamprocessing

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jctb.6920

医薬品の連続生産を導入する際の考え方について(暫定案)

https://www.pmda.go.jp/files/000223711.pdf

PATは,QbDとRTRtを可能にする重要な手段

  • プロセスの理解を深め、ばらつきを最小化する手段
  • 重要な工程を監視・制御し、製品・工程のロバスト性
    堅牢性
  • 新製品または既存製品への適用
  • 継続的品質検証(継続的プロセス検証)のサポート
    検証)

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まとめ

以上,持論も含めて国内のジェネリックメーカーの今後の方向性について考えてみました.

これだけ,国内の医薬品ジェネリックメーカーの不祥事が続いているのは,偶然とは考えにくいです.

何か構造的な問題があると考えるのが妥当だと考え,今回の提言をまとめました.

国内ジェネリックメーカーさん,行政機関の担当者さんの参考になれば幸いです.

以上,GMPシステムとしてのソフト的な対応と効率的製造のためのIT/オートメーションなどハード的な対応で,社内の仕組みを構築が必要です.更に継続して少しずつでも改善していくことが,低いコストで医薬品を製造し続ける事ができるものと考えます.

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編集履歴

2023/10/28, Mr.HARIKIRI
2023/11/13, 追記 (担当者のミスは会社の責任,ソフト的対応など)


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