[Bio-Edu] AAV およびrAAV vector について- 長所/短所、立体構造、分子量および血中半減期 及び他ベクターとの比較 – ID2174 [2020/11/05] ID2174

はじめに

遺伝子治療用に使用されるウイルスベクターには、AAVの他にLentivirus, Retrovirusがありますが、これらは、物理的な強度がAAVと比較して低いため精製での扱いに注意が必要です。例えば、Lentivirusは粒子サイズも大きく物理的な強度が高くありません。具体的には、pH6~8、<500mM NaCl, 低温(+4℃)で精製環境を整える必要があります。

その点、AAVは、粒子サイズが低く、様々な条件でレジスタンスです。

AAV

AAVは一本鎖DNAのアデノウイルス科に属するウイルスで、アデノウイルスが存在する時だけ、増殖が可能である。

AAV遺伝子はITR(inverted terminal repeat)と呼ばれる両末端にヘアピンのT型の配列があり、AAV自身の増殖と宿主細胞の染色体DNAへの組込み時に機能する。

ITRで挟まれた配列には、左側には非構造蛋白質をコードスするRep領域、右側にはウイルス粒子を形成するカプシド蛋白質であるVP1, VP2及びVP3をコードするCap領域がある。

宿主細胞の第 19 番染色体長腕の AAVS1 領域(19q13.3-qter)へ組み込まれるが、実験的には,AAVS1 領域と ITRの間を取り持つのが、 Rep(結合領域の両者に共通して存在する塩基配列 : GAGC 繰返し 配列)に,Rep78/Rep68 が結合することで、特異的に組み込まれる。

参考

コスモバイオ: tps://www.cosmobio.co.jp/support/technology/a/adeno-associated-virus-aav-apb.asp

AAV を利用した遺伝子治療、小 澤 敬 也: http://jsv.umin.jp/journal/v57-1pdf/virus57-1_047-056.pdf

AAVを遺伝子治療に活用

PackGeen

AAVの構成蛋白質と構造 (文献1)

外殻蛋白質が60個でAAV粒子を構成しており、その比率はcap領域にコードされている蛋白質VP1, VP2及びVP3が1:1:10とある。そこから推察するに、(VP1+VP2+10(VP3))を1単位として、5単位あれば、60個の外殻蛋白質となり計算があう。

すなわち、VP1 x 5, VP2 x 5, VP3 x 50で構成さそれていることになる。

  • [VP1+VP2+10(VP3)] x 5
  • VP1: 82kDa, VP2: 65kDa, VP3: 60kDa (文献2)
  • (82 + 65 + (10 x 60) ) x 5
  • 以上から、理論分子量は、3735kDa
  • 粒子分子量: 3,600kDa (文献2)
  • 遺伝子: 1,500kDa (文献2)

2009年時点で、AAVの血清型,1,2 4,5および8で結晶構造が決定されており、6,9では部分的に決定されてる。現在2019では、ほとんどが決定されているはず。

血中半減期 (文献1)

AAV8, 9 (robust serotype)を用いたAAVベクターは、静脈内投与で高い効率で肝細胞、骨格筋細胞、心筋細胞に遺伝子を導入できる。AAV9の血中半減期は、半日。一方、高い遺伝子導入が可能なアデノウイルスは、血小板に吸着して血小板凝集体となり網内系での除去、肝クッパー細胞による除去などで、血中半減期は、2分程度である。

  • 血中半減期は、細胞への吸着、網内系除去に関わる
  • 必ずしも、血中半減期が遺伝子導入効率と相関しない
  • AAV9 : 半日
  • アデノウイルスベクター : 2分

文献

  1. 急速に進化をつづけるアデノ随伴ウイルスベクター カスタムメイドベクターによる遺伝子治療の可能性: https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/24/6/24_6_582/_pdf
  2. https://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/9925e31f10c2c89d4925720a00083512/$FILE/shiryou3-1_5.pdf
  3. ア デ ノ 随 伴 ウ イ ル ス ベ ク タ ー と遺 伝 子 治 療 (1997): https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv1958/47/2/47_2_221/_pdf

長所

  • AAVは非病原性である(P1での取り扱いが可能)
  • 導入させる遺伝子は、長期に渡り発現されると考えられている
  • 色々な細胞に遺伝子を導入可能 (ただし血清型での違いあり)
  • AAVはパルボウイルス科に属し、物理的に安定 (pH3~9, 56℃ 1時間, 文献2)

短所

  • ウイルス粒子(~22nmφ)は小さく、導入遺伝子の大きさが5kbp以内に制限される
  • 成人の過半数が中和抗体を有するため、成人での投与では導入効率が低い可能性がある(ある程度の産生される蛋白量が必要な疾患、例えば血友病などでは、中和抗体の存在濃度は治療効果に重要な因子であることから、中和抗体価のスクリーニング系の構築も重要であるとのこと)
  • ベクター作成は、発展途上段階であり技術は未成熟である

インパクト

  • 血友病などの補充療法に使用する深部出血に対して予防効果が完全でない血液分画製剤や遺伝子組換え製剤は、近い将来凌駕され遺伝子治療法に置き換わる(BY はりきり(MR))

文献

  1. https://nsmc.hosp.go.jp/Subject/26/juku/juku011files/cyoukou/mizukami.pdf
  2. https://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/9925e31f10c2c89d4925720a00083512/$FILE/shiryou3-1_5.pdf

Vectorの比較

表1.ウイルスとしての比較
比較項目AdenovirusAAVLentivirus
Infection efficiency
(感染率)
100%30~40%~30%
Packaging Capacity
(遺伝子量)
7.6 kb4.0 kb8.5 kb
Integrate with host genome
(ゲノムへの取り込み)
NoYesYes
Pathogenic
(病原性)
YesNoYes
Inflammatory response in vivo
(炎症)
HighLowLow
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表2. Adenovirusの優位性
比較項目AdenovirusAAVLentivirus
Infects many different human cell typesYesYesYes
Infects both dividing and non-dividing cellsYesYesYes
Non-integrating virusYesNoNo
High level of protein expression (up to 10-20% total protein)YesNono
Ability to accommodate long inserts (up to 8 kb)YesNoNo
Easy to scale-up/amplifyYesNoNo
Easy to get titers > 1e10 IFU/mLYesNoNo
Easy to get a multiplicity of infection > 25 copies per cellYesNoNo
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編集履歴
2019/09/15 Mr.はりきり
2020/08/03 文言整備、アデノウイルス・ベクター関連記事の追加
2020/10/05 追記 (Pall webinar, 2020/11/05)